広瀬すず×永瀬廉による青春ラブストーリー、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS火曜よる10時〜)。共同生活が始まったものの、互いの距離よりも他の人との距離が近づいていく浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)。ふたりの思いはどう動いていくのだろうか。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが2話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。1話のレビューはこちら。
広瀬すず×永瀬廉『夕暮れに、手をつなぐ』2話。響子邸の夜こそナミブ砂漠の水飲み場のよう
傷ついた者たちが集まる場所
浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)が住む家の大家、響子(夏木マリ)の部屋のモニターでは、アフリカ・ナミブ砂漠の水飲み場のようすが流れている。このライブカメラには、時折動物たちが水を求めてやってくる姿が映し出される。
『夕暮れに、手をつなぐ』2話でたっぷりと時間を使って描かれた響子邸の夜のようすは、まるで砂漠の水飲み場に集まった動物たちのようだなと思った。響子はそうやって、傷つき疲れた人々が集まる場所を作っているのかもしれない。コンポーザーになるという夢を選んで恋人を失い、けれど音楽の仕事がうまくいっていない音も、婚約者にふられた空豆も、ここではひととき癒される。響子の息子・爽介(川上洋平)は若き起業家として活躍していて、いまは問題などなさそうに思えるけれど、実は音楽の道を諦めた過去を持っている。
プロとしての一歩を踏み出そうとする音
音楽では食べていけず、コーヒーショップでアルバイトをする音は、ある日温泉のプロモーション映像につける曲を磯部真紀子(松本若菜)から依頼される。たまたま遭遇した売れっ子のマンボウ(増田貴久)からは
「こんなダサい仕事受けない方がいいんじゃないの?」「安売りしていいの?」
と言われ悩む音。
しかし爽介からは発注されて作るという経験によって「また何か変わると思う」「プロの意識っていうか」とアドバイスされ、この仕事に取り組む決意を固める。
この仕事がコンペであることを、音は後から知らされる。磯部は「自分がいっぱしの作曲家の先生とでも思った?」さらに「ごめん」「つい弱い者に当たっちゃうんだよね」と悪気はないにせよずいぶん厳しい物言いだ。それに対して「気をつけてください、ガラスのハートなんで」と言い返せる音は、やっぱりただ弱いだけじゃない。
クリエイティブな仕事は、無名のときこそ特に、「そのとき、その場にいる」こと、タイミングをうまくキャッチすることがたいせつだ。十把一絡げの作曲家の卵であったって、そのときコンペの候補に入れようと思い出してもらえる存在であること、仕事を依頼されたときに対応できることが、次の仕事につながっていく。もちろん、時にはマンボウのように最初から選り好みしていてもブレイクするような天才もいるけれど。
人との出会いもタイミングだ。1話で奇跡のようなタイミングが重なりに重なって空豆と音は出会った。けれど、音が手応えのある曲を完成させたとき、空豆は爽介と「異業種交流会」に出ていて不在だった。響子も手が離せない。だから、音はコーヒーショップで電話番号を渡してきた謎の美女(田辺桃子)に電話をかけた。女性の電話番号がもし、音が疑っていたように「そば屋の出前にでも」つながっていたら、その先で電話に出るのは空豆だったかもしれないが、電話は正しく美女につながり、二人の関係は始まってしまった。
爽介と距離を縮める空豆が、この先音と向き合うときがきたら、空豆はスマホのように、お手玉のように、ケーキの箱のように、そのタイミングをキャッチできるだろうか。
「ものを作る人」への思い
2話では、響子と話す空豆の
「なにかを作ろうとする人は好かん」
「遠くの人を楽しませる人は近くにいる人を悲しませるっとよ」
という言葉が印象的だった。
空豆を置き去りにして消えた母のことなのか、それともアプリ開発で成功したという元婚約者・翔太(櫻井海音)のことを思い浮かべていたのか。
それに応えて響子は言う。
「ものを作るっていうのは、人間がいっちばん遠ーくまで行ける手段なんだよ」
作る人である音と、公式サイトなどによればこの先自らも作る人になろうとする空豆。2人とも「作る人」である場合、その関係はどうなるのだろう? やはり、近くの人を悲しませてしまうのか、それとも力を合わせてもっと遠くまで行けるのか。
空豆と音、それぞれの東京との距離
空豆はことあるごとに翔太を思い出しながらも、“港区女子”をめざしたり、マッチングアプリに登録したり、そば屋の娘・千春(伊原六花)から空色のワンピースを借り受けて異業種交流会に参加したりする。新たな恋のためというよりは、実家のエレベーター代のためだけれど。
響子に向かって
「私、港区女子になります」
と標準語のイントネーションで言い、音が
「え、お前訛んないで喋れんの?」
と驚くところ、異業種交流会に向かいながら爽介に
「言葉はそのまんまでいくの?」
と聞かれ
「はい~」
と返すところを見ると、空豆は強い意志のもと、この九州のいろんな地方の言葉が混じった訛りを喋っているらしい。
一方で音は神戸出身だからたまに「関西訛りが出る」とナレーションで触れつつも、2話でそれらしきイントネーションが出たのは空豆と言い争いをしていたときの
「せめて人間になれ、早く人間になれ」
くらいだった。
ともに地方から東京にやってきていながら、空豆と音の東京との距離の取り方は対称的だ。
響子が歌った「なごり雪」を、音は「空豆の歌みたい」と言った。この先、東京から帰る空豆を音が見送る日が来るのかもしれない。
ナレーションの不思議
そうそう、2話ではふだん[Alexandros]のヴォーカル、ギターとして活躍している川上洋平がギターを弾くシーンがあった。今後、音がバイトするTOMIGAYA COFFEEの店主? としてさらっと登場していた清竜人も音楽を披露することがあるだろうか。
2話で気になったのが、音によるナレーション。爽介と空豆が響子宅で再会した時の
「空豆は忘れられていた」。
異業種交流会で「インバウンド」を輸入と間違える空豆に対する
「違います」。
ときどき、その場にいないはずの音による言葉が添えられるのだ。空豆を神の視点で見ているかのようなこの言葉たちは、いったいいつの、どこにいる音によるものなのだろう。この先、明かされるときが来るだろうか。
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典、淵上正人
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、夏木マリ、松本若菜 他
プロデュース:植田博樹、関川友理、橋本芙美、久松大地
主題歌:ヨルシカ『アルジャーノン』
エンディング曲:King & Prince『Life goes on』
🗣️
Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
twitter