林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。
摘木星砂(松岡茉優)の人格が戻ることを願う馬淵悠日(仲野太賀)。一方の鹿浜鈴之介(林遣都)はもうひとつの人格の星砂を大切にしている。そんな中、新たな殺人事件が……。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが7話を振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→6話のレビュー
林遣都×仲野太賀『初恋の悪魔』7話。ふたりの星砂を巡って対立せざるを得ない

思い出を残したくない星砂と覚えていてほしい星砂
恋人との別れであれ、大切な人との死別であれ、人と別離する未練はもしかして「思い出」が忘れられていくことにあるのだろうか。相手と一緒に重ねてきた思い出が、自分だけのものになってしまう、あるいは確かめる術がなくなってしまう。自分だけが記憶していることはどうにもあやふやで、夢との境目が見つからない。同じ思い出を誰かが覚えていてくれる、覚えようとしていてくれる。そう思うだけで、人は強く生きていけるのかもしれない。
7話にいたのは、全編いわゆる「ヘビ女」人格の摘木星砂(松岡茉優)だった。雪松署長(伊藤英明)を殴ったかどで謹慎をくらい、やがてクビになってしまった馬渕悠日(仲野太賀)にとっては、ようやく見つけた星砂まで “いない”状態で、踏んだり蹴ったりだ。(以下、最初から登場していた星砂を星砂1、ヘビ女人格の星砂を星砂2とする)
鈴之介(林遣都)の元に身を寄せる星砂2は、自分はいつか消えると思いながら暮らしている。「人って記憶でできてるでしょう?」「だから思い出の数が多いほうが本物だと思います」と言い、鈴之介と過ごす時間を「今のこれは思い出にはしないでください」「私たちには何も思い出はありません」と伝える。自分を救ってくれた淡野リサ(満島ひかり)の無実を晴らしたいという思いだけはあるけれど、誰かと必要以上に接することを避け、誰かの思い出に残ることを拒絶している。
一方で、消えてしまったほうの星砂1は、恋人の悠日に手紙を残していた。
「ほんのスプーン一杯くらいの思い出があればそれでいいのだ」
「どうかニヤニヤ意地悪言ったり、ヘラヘラふざけていた私だけを覚えていてほしい」
「私には思い出がある。しかも、私の思い出は私だけの思い出じゃない。それがうれしい。これ以上があるか」
こちらの星砂1は覚えていてほしいという思いを残したまま、けれど今はどこにもいない。
もうひとりの星砂を大切にする鈴之介
悠日は鈴之介のもとにいる星砂2が自分を知る星砂1ではないことに理解を示してはいる。鈴之介のことも責めたりはしない。ただ自分の恋人である星砂1が戻ってくるのを信じて待っている。尾行をするのは元の星砂1に戻る瞬間があったらそれを逃したくないからで、カレーを届けるのはそれを食べて自分を思い出してくれないかという思いからだろう。
けれど「スプーン一杯くらいの思い出」の中にある、星砂2のあくびの仕方が星砂1と同じなのを見つけてしまった悠日は、どうしても思いが溢れてしまう。
「あなたがそこに居座ってるから本当の摘木さんがいなくなっちゃったんでしょう」「あなたはそこにいちゃいけない人なんです」
星砂1を思うあまり、もうひとりの星砂2を傷つけてしまう悠日。
私もあくびの瞬間、星砂の人格がまた入れ替わったのかとも思ったが、これは星砂2が「自転車の練習の記憶がないけれど自転車に乗れる」のと同じことなんだろう。
悠日にとっては邪魔なほうの星砂2だけれど、鈴之介にとっては星砂2こそが、「思い出じゃありません」と言われてもどうしようもなく記憶していってしまうこの星砂2との日々こそが、大切で守りたいものなのだ。
本当の顔はわからない
森園真澄(安田顕)が追っている5年前の事件、リサが悠日の兄・朝陽(毎熊克哉)によって逮捕された3年前の事件と発見場所や遺体の状況に共通点のある殺人事件が新たに起こる。被害者の恋人である桐生菜々美(あかせあかり)が容疑者として浮上するが、4人は実に4話以来久しぶりの「自宅捜査会議」で総勢6人から否定されていた彼女のアリバイが成立することを突き止める。その6人は自分の保身のために彼女の無実を証言しなかった。彼女が嫌われていたからだ。恋人が殺された翌日に「歌ってみた」動画を上げるような人間は嫌ってもいい、と判断されたからだ。
「人に見せたい顔と本当の顔は違う。彼女がどんな気持ちだったかなんて、この動画じゃわからない」
鈴之介は言う。そのとおりだ。同じように、星砂2の「思い出を残したくない」という言葉の裏にどんな気持ちがあるかも、わからない。
「わたしの一番かわいいところ」(FRUITS ZIPPER)の「わたしの一番、かわいいところに気付いてる」というフレーズも、恋人だけが知っている思い出の話だなと思うと、ポップでキュートなそのメロディがやけに重く心に残る。
友達のために行動する琉夏の魅力
悠日と鈴之介がふたりの星砂を巡って対立せざるを得ない形になってしまっているなか、7話では常に友達のことを思い行動しながらも、言動にユーモアをまとう小鳥琉夏(柄本佑)の魅力が溢れていた。
最初に菜々美の動画を見たとき「人としてどうなんだろうか」と言った琉夏は、「だからといって濡れ衣を着せられていいとは思ってないよ」「罪と罰が釣り合わないでしょ」と話す。一般的な視点を持ちながらも、フラットな考え方の人だ。
星砂の状況を知らず、鈴之介と星砂と二人の裏切りだと考えている琉夏は、「じゃあどういうことなのさ? 説明してさ」と鈴之介に聞く。彼のしゃべり方に呼応した結果「長くなるんだよさ」と『ブラックジャック』のピノコみたいになった鈴之介に対して
「バカにしてんのか! りんちゃんの話はいつだって長いだろう」
という琉夏の言葉は、友達だからこそ出てくるものだなあと思う。
だからこそ、誰か星砂のことを説明してやってくれよ! と思わずにはいられない。
鈴之介に頭を下げて「頼むよ、(星砂を悠日に)返してやってくれよ」「それどころじゃないんだ」「じゃ何どころジョージなんだよ!」のシリアスとおふざけのまじり具合。発言しようとする森園に対する「あなた関係ないでしょ、ま僕も関係ないけど」というセリフ。
そして「僕だって君に膝なんか貸したかないよ。しかし今の君に必要なのは睡眠と、プライスレスな優しさだ」と言い、悠日に膝を差し出す姿。
柄本佑の、よけいな力の入っていない飄々とした演技がこの琉夏に魅力を与えているのだろう。こんな琉夏を見てしまうと、琉夏が思いを寄せる服部渚(佐久間由衣)が彼の魅力に気づくことを願ってやまない。
誰かのために泣く二人の男
星砂1からの手紙を読んだ悠日は「泣くんじゃねえぞ」と書かれていたにも関わらず、涙を止めることができない。そんな悠日を小洗杏月(田中裕子)はやさしく抱きしめる。悠日が泣く姿は2話の兄との電話で見ていたけれど、7話では悠日とは真逆に思える、あまり感情を見せない雪松もまた、ラストで泣いていた。泣きながら「響子」という女性に電話で「やっと終わったんだ」と伝える雪松もまた、なにかの思い出に囚われている人だったりするのだろうか。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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