林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。鹿浜鈴之介(林遣都)と摘木星砂(松岡茉優)の関係が少しずつ深まると同時に、いよいよ連続殺人事件の全貌も明らかになってきて、ついに今夜最終回!ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが9話を振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→8話のレビュー
『初恋の悪魔』9話「帰ってきたら、りんごのむき方、教えてくれる?」衝撃のラストに戦慄

鈴之介にとっての「隣人」
「殺人犯は皆、僕たちの隣人です。愚かな隣人です」
いよいよ雪松署長(伊藤英明)が連続殺人事件の犯人であるという確信を得、動機の解明を後回しにして告発を急く森園真澄(安田顕)。その森園を制して鹿浜鈴之介(林遣都)が放つ言葉がこれだ。
思えばこのドラマは、鈴之介が隣人である森園を覗くシーンから始まった。森園を一方的にシリアルキラーの素養があると決めつけ、観察をしていた鈴之介。
あのまま鈴之介がただ空想の世界に遊び、安全圏から隣人を見ては盛り上がっているままだったら。それまでのようになるべく人と関わらずに生きていたら。
もしそうだったら、こんなふうに危険な事件に首をつっこむこともなく、思い悩むことも傷つくこともなかった。けれど、ある日、馬淵悠日(仲野太賀)が家を訪ねてきたことから、鈴之介は「人生に必要としていなかった」目に遭った。
いざ、雪松の逮捕に向かう鈴之介と悠日が並んで歩きながら話す場面は、重ったるい緊迫感をまとう9話の中で、一条の光のように気持ちのよい時間だった。
「友だちができた。好きな人ができた」
「災難でしかない」
「鹿浜さん、それは僕も同意見です」「僕たち、気が合ういいバディじゃないですか」
複雑な恋のライバルでありながら、いいバディでもある、そんなかけがえのない存在がいま鈴之介の隣にはいる。鈴之介は憎まれ口を叩き続けるけれど、それは一見、出会った頃と変わらないようにも思えるけれど、でもこうして並んでテンポよく話す二人には、互いへの信頼が感じられる。
特別じゃない人の犯罪
「生まれついて猟奇的な人間なんていません。仮にいたとしても、僕たちはその理由を考えることを放棄してはいけない」
これも鈴之介が森園にかけた言葉だ。登場した頃の鈴之介にとって殺人や殺意は机上のもののようだった。けれど自分の大切な人たちに関わりのある事件が起きて、明らかに変わった。真犯人に「殺したい」と激昂する摘木星砂(松岡茉優)がいて、「そうさせない」と抱きしめるいま、鈴之介は大切な人を失わせる殺人という行為の重さを今までになく感じていることだろう。
けれどもその一方で星砂に「真相なんてどうでもいい」「ただあなたを失うのが怖いんだ」と叫ぶ鈴之介にも嘘はない。彼らはいつも、ごく個人的な思いで事件を追ってきた。それはずっと変わらない。
森園は、5年もの長きにわたってこの殺人事件の真相をひっそりと探していた。雪松に放つ言葉には、この年月と、そして彼によって殺されてしまった少年たちの命の重さが乗っている。
「犯罪者が特別な人間だと思ったら大間違いですよ。孤独だとか、恵まれないだとか、恨みだとか、心の闇だとか、そんなものは誰だって持っている」「人殺しは特別な人間じゃない。かわいそうなのは自分だけだと思っている愚か者だ」
鈴之介もかつては、自分を変人=ふつうではない=特別と認識していた。けれど、彼は犯罪者にはなっていない。かつて直接交わることなくただ観察していた隣人と、いまは一緒に事件を追っている。鈴之介も森園も、そして雪松も変わらない。等しく誰かを大切にする気持ちを持っている。けれどそのために、人を傷つけることはぜったいに許されないのだ。
りんごのむき方という新しい記憶
星砂2(後から現れた、いわゆるヘビ女人格)は、星砂1(悠日と恋人同士の人格)こそがこの身体の持ち主だと思い、自分はいつか消える運命だと考えている。だから鈴之介と重ねている日々は「思い出ではない」と宣言していた。けれど鈴之介にとっては星砂2こそがたいせつな人だ。だから「自転車の練習をした記憶はないけれど、自転車には乗れる」と星砂1の経験を借りて生きている星砂2に対して、星砂2にしかない記憶と経験を作ろうとする。それが、星砂がまだ知らない「りんごのむき方」を教えること。
雪松逮捕のために出かける鈴之介に「帰ってきたら、りんごのむき方、教えてくれる?」と星砂2がかけた言葉は、鈴之介の思いを、星砂2で新しい思い出を作ることを受け入れた言葉だ。そして少なからず危険な目に遭うかもしれない鈴之介に対して、約束をすることで無事に帰ってくるよう願掛けをするような気持もあるのかもしれない。
永遠の別れでは決してないけれど、小鳥琉夏(柄本佑)の言うとおり、「心配してるときはたいてい何も起きない」の通りかもしれないけれど、このシーンを見ていたら「道があって、約束があって、ちょっとの運があればまた会えます」という、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ)で坂元裕二が書いた言葉がふと頭に浮かんだ。
星砂が覚えていた悠日の言葉
雪松の息子・弓弦(菅生新樹)を確保し、彼の語る「父が殺した」という言葉を信じた4人。鈴之介の部屋で毛布に包まっている弓弦に星砂は「根拠のない大丈夫は、やさしさでできているんです、って」と声をかける。悠日が部屋にカーテンをかけながら、星砂1に向かって言った言葉だ。あの瞬間、表情が変わって悠日の家を出ていった星砂は、この言葉を聞いていたときはもう星砂2になっていたのか、それとも自転車の乗り方のようにこの言葉だけを覚えているのか。
9話ラストは恐ろしかった、息が詰まった。弓弦に襲われそうになった星砂をかばう森園の姿に、琉夏の「心配しているときはたいてい何も起きない」の言葉がもう一度よみがえる。そういえば、森園の妻・千尋(萩原みのり)は「もう心配するのやめる」と言っていた。
あともう少ししたら、最終回がはじまってしまう。待ち遠しいけれど、登場人物たちに会えなくなると思うと、さみしさのほうが上回る。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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