韓国映画界を代表する映画作家の一人、イ・チャンドンによる全長編監督6作品と、自らのフィルモグラフィを振り返る新作ドキュメンタリーが一挙上映される「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」が8月25日より開催中。先だって来日した監督に、映画作りについて聞く機会を得た。彼が撮影現場でとらえたいと願う、自身や俳優の意図を超えたところに生まれる「偶然性」とは? そして、スクリーン越しに私たちへ問いかけている「倫理」とは?
イ・チャンドン監督にインタビュー「映画を撮ることは、偶然と出合う作業」
『バーニング』『オアシス』など6作品が4Kで上映中

──今回のレトロスペクティヴでは、イ・チャンドン監督を敬愛するフランスのアラン・マザール監督による新作ドキュメンタリー『イ・チャンドン アイロニーの芸術』が日本初公開されます。企画提案があった際、どんなお気持ちでしたか?
きっかけは、2009年にフランスの映画評論家、N.T.ビン氏から「アラン監督があなたのドキュメンタリーを撮りたいようだが、どう思うか聞かせてほしい」とメールがあったことでした。その時は、10日ほど返事をしませんでした。取り組んでいる案件が複数あったからですが、同時に、私は自分をさらけ出すのが苦手なんです。それでも周囲からのすすめもあり、他の監督の視点で自分の作品を整理することに意味があると感じ、最終的に引き受けました。
コロナ禍でアラン監督が韓国に来ることができず、対面でのインタビューが叶わなかったため、通常のドキュメンタリーとは違った方法で作る必要がありました。本編は『ペパーミント・キャンディー』のように、現在から過去へ逆行していく流れで構成されています。自然と、映画を撮る前に書いていた小説の話や、子どもの頃の話も入っていきました。
──このドキュメンタリーとともに、長編6作品が4K上映されます。ご自身でリマスター作業をされたとのことですが、注目してほしい点はありますか?
6作のうち、『バーニング 劇場版』だけが元から4Kで制作した作品で、残りはすべてリマスターした4Kレストア版です。その中でも『シークレット・サンシャイン』と『ポエトリー アグネスの詩』は、少し違った形でリマスターしました。もともとデジタルで撮ってはいましたが、4Kにするためにアップグレードの過程を踏んでいるんです。とはいえ元の映像の印象を活かすことを目指しました。その点を考慮して観てもらえると、元の雰囲気や感情をより味わえると思います。
リマスターにおいて元のクオリティを維持するためには、緻密な作業が必須になります。さらに、時間と費用も必要です。監督本人が手がけるのが一番ですが、なかなかそうはいかない場合もあります。今回その機会が与えられ、本当に幸運でした。
Photo: Yuka Uesawa Edit&Text: Milli Kawaguchi