『658km、陽子の旅』の主人公は東京でアパートに引きこもり、孤独ながらも気ままに生きる陽子。疎遠だった父の葬儀に出るために、故郷の青森・弘前に向かう途中、思いがけないアクシデントにより、やむなくヒッチハイクを始めます。菊地凛子さんは陽子を演じながら、自分の人生経験も投影したそう。「役の理解者でありたい」という気持ちがひしひしと伝わってくる、そんなインタビューとなりました。
菊地凛子が映画『658km、陽子の旅』に見出す普遍性
「ざらざらで許しがたい人生経験にも、実は希望がある」

──菊地さんが演じるのは、東京で在宅フリーターをしている42歳・独身の陽子です。20年以上絶縁していた父親(オダギリジョー)が亡くなり、従兄の茂(竹原ピストル)とその家族と、車で故郷の青森・弘前を目指すも、途中でうっかりサービスエリアに置き去りにされてしまい、所持金がないために渋々ヒッチハイクを始めます。今回の役柄をどう捉えていますか?
すごく不器用な人だけど、あまり特別視はしてないんです。彼女はきっと些細な失敗から人生に立ち止まってしまい、過去を振り返ることも、かといって未来に希望を見出すこともできないまま、今をなんとか生きている人です。私にも過去に、立ち止まってしまうことはありました。
陽子が経験するのは、わりに辛いことばっかり。でも、実人生って結構そんなものじゃないかなって。
──たしかにそうですね……。
幸せなことってそうそうなくて、どちらかというとネガティブなことの方が多いかもしれない。でもその中から見出せる希望がある。目を背けたくなるようなものの中にこそ、一筋の光が差すというか。すごくざらざらで、自分ではちょっと許しがたい人生経験も、実は人を動かしていくきっかけになると思うんです。
陽子みたいに長い間引きこもっていると、人とのつながりを見つけられずに、どういうきっかけでまた一歩踏み出せるのか、わからないと思う。でも、父の死をきっかけに荒療治的に引っ張り出されて、時には素朴で親切なご夫妻(風吹ジュン、吉澤健)と出会い、相手の手を握りたくなる瞬間がふと訪れる。やっぱり人間は、人と人との間にしか自分のことを見出せないんだと思います。
Photo: Tomohiro Takeshita Stylist: Tomoko Kojima Hair&Makeup: Ryota Nakamura(W) Edit&Text: Milli Kawaguchi