2022年に公開されたA24発のホラー映画『X エックス』。その前日譚で、シリーズ3部作の2作目『Pearl パール』がいよいよ日本にやってくる。引き続きタイ・ウェスト監督と主演のミア・ゴスが組み、さらに共同で脚本も担当。映画スターを夢見るパールは、いかにして超危険なシリアルキラーに変貌していくのか。この恐ろしくもどこか普遍的な物語に、二人が込めた思いとは?
『Pearl パール』タイ・ウェスト監督&ミア・ゴスにインタビュー
怖いけど切ないホラーヒロイン像はどう生まれたか

──『Pearl パール』は、前作『X エックス』に登場するシリアルキラーの老婆パールの、若かりし頃を描いた続編にして前日譚です。タイ監督は普段はよく一人で脚本を書いていると思いますが、今回はミアさんと共同で手がけています。なぜでしょうか?
タイ 『Pearl パール』の脚本に着手したのは、『X エックス』の撮影直前。ロケ地のニュージーランドでは当時、入国後の隔離措置が義務づけられていて、その期間中に考え始めたんだ。最高のシナリオはもちろん続編として映画化することだったけど、まだA24の確認をとる前だったから、最悪『X エックス』のバックストーリーになればいいかと思って。ミアは『X エックス』で年老いたパールを演じることになっていたから(*主人公の若い女性マキシーンとの2役を演じた)、『Pearl パール』の脚本にはミアの声が必要だと勘が働いて、声をかけたんだ。

──監督はニュージーランド入国後の隔離中、まだアメリカにいたミアさんと、毎日のようにFaceTimeでパールについて話し合ったそうですね。そして現在は、3部作の完結編『MaXXXine(原題)』を制作中とのこと。ミアさんはこのシリーズにおける二人の主人公、パールとマキシーンに出合って何年になりますか?
ミア タイと最初に話したのが2020年8月だったと思うから、ちょうど3年くらいかな。クレイジーだね。
タイ その間に、僕ら二人とも子どもを授かったくらいだもんね(笑)。
ミア それだけ長く、このプロジェクトに取り組んでるってこと。
──その長く連なった時間は、映画スターに憧れる主人公パールを演じる上でどんな影響を与えましたか?
ミア 役と私は、興味深い平行線をたどってると思う。……う〜ん、どう表現したらいいかな。私とこのシリーズの主人公たちは、いろいろな意味で一緒に成長してきたし、同時に成功を収めてきた。だから私の経験を、彼女たちに注ぎ込むことができた。自分の人生に手を伸ばし、役の「器」になることができたというか。主人公たちと長い間一緒にいたような感じで、こんな体験はもう二度とないはず。
彼女たちを演じたことは、私自身にも影響していて。自己実現的で、循環的な共生関係が生まれたというか……言葉にするのはホント難しい。ただただ完璧な体験だったんだ。だって、私は本当にパールでありマキシーンだったから。そのことをタイはよくわかってくれてた。
──『X エックス』が老いと若さにまつわる恐怖を描いていたとしたら、『Pearl パール』では何かを成し遂げたい時につきものの、「自分は取るに足らない存在なのではないか?」という恐怖が表現されているように思いましたが、その点いかがでしょうか?
タイ 今と違う人生を望む場合、失敗の脅威はとても大きくて、自己認識にさえ影響してくる。パールの場合、不本意な環境に生まれてしまったわけだけど、彼女が生きたいと思う人生を実現するのは難しいことで。手の届かないところにあるものを欲しがりながら、それを追い求めることを恐れるのは、人間の普遍的な感情だよね。でもパールにとって、それは生きるか死ぬかの問題で。この奇妙な映画には、実は親近感のわくテーマも凝縮されていると思うんだ。
ミア 私は、パールが自分をつまらない存在だと疑っているとは思わない。むしろ逆で、自分の可能性に気づいてる。パールが自分の才能を認めてほしい相手は、本当は母親ただ一人で。でも、厳格な母親は娘が望むものを与えることができない。だから、パールは次に行くわけ。実際、そういう理由からショービジネスの世界に足を踏み入れる人は多いんじゃないかな。他では得られなかった愛や承認を求めて、空白を埋めようとしているというか。パールは世界が自分に追いつくのを待っていて。そのうち少しずつ人生に疲れ始めるけど、いつだって彼女には希望があると思う。
Edit&Text: Milli Kawaguchi