© Elsa Okazaki
1871年から1994年にかけ、ドイツでは男性同性愛を禁止する法律「刑法175条」が施行されていた。終戦後の1945年、恋人と共に投獄された1957年、そして刑法改正が報じられた1968年と、3つの時代を行き来しながら、愛する自由を求め続けた男ハンスの闘いを映し出す映画『大いなる自由』。オーストリア出身の監督セバスティアン・マイゼがカンヌ国際映画祭でも評価された作品について語る。
迫害の歴史を意識し、問い続けること
© Elsa Okazaki
1871年から1994年にかけ、ドイツでは男性同性愛を禁止する法律「刑法175条」が施行されていた。終戦後の1945年、恋人と共に投獄された1957年、そして刑法改正が報じられた1968年と、3つの時代を行き来しながら、愛する自由を求め続けた男ハンスの闘いを映し出す映画『大いなる自由』。オーストリア出身の監督セバスティアン・マイゼがカンヌ国際映画祭でも評価された作品について語る。
──本作は、「刑法175条」がどのようなものだったのかが描かれていますが、私たちは獲得された自由について振り返ることをあまりしないですよね。風化させてはいけない、という意思から、この映画が生まれたのでしょうか。
正直なところ、私も175条についてそこまで詳しくなく、耳にしたことがあるくらいのレベルでした。オーストリアとドイツで、同性愛が一時的に違法であったこと、今もなお世界の3分の1以上の国では違法とされ、処罰の対象になっていて、たとえばイランやサウジアラビアなどでは死刑になってしまうことも知っていましたが、迫害の全容を知ることはありませんでした。ちなみに、オーストリアでも男性同性愛者への迫害は続いていて、2017年まで被害者が慰謝料を受け取ることも、刑期が赦免されることもなかったのです。
──つい最近まで続いていたというのはショッキングですね。
私もショックを受けましたし、なぜ誰もそのことを話題にしないのか理解できませんでした。オーストリアやベルリンの若いクィアコミュニティの間でも、175条が歴史の一部であることは知っていても、その内容についてはなぜか誰も理解していなかった。おかしいですよね。だから、意識し続けることが大事だと思ったことは制作の動機になっています。
──共同脚本家であるトーマス・ライダーさんと共に、175条で拘束されていたサバイバーの方々にインタビューをしながらリサーチをしたそうですが、彼らと話してどのようなことを感じましたか?
興味深かったのは、共通する印象として、心を壊された人のようには全く見えなかったことでした。プライドが高いと言うのかな。今の若い人たちに見られるようなプライドの高さとはまた違う、誇りや自信がある感じ。そして、彼らはこう言っていました。「国は何も与えてくれなかったし、私たちは違法だった。だから、自分のことは自分でやってきたんだ」と。ユーモアのセンスがある人ばかりでしたし、これまで、いい人生を送ってきたのだいうことが伝わってきたんです。
edit & text : Tomoko Ogawa