銭湯の女主人かなえが探偵を雇って失踪した夫を探す中で、知らず知らずのうちに自分自身の“心の底流”に導かれるさまを描く、ロングセラー漫画『アンダーカレント』が映画化された。今泉力哉監督と製作陣がかなえ役にとラブコールを送ったのは、感情を剥き出しにした気迫ある演技で世間を魅了してきた、真木よう子さんだ。一転して静謐なこの役にどう向き合ったのだろう。
真木よう子が『アンダーカレント』に投影した、誰しもにある想い
今泉力哉監督がロングセラー漫画を映画化

──この映画のどんなところに惹かれて出演を決めたか教えてください。
もともと原作漫画を2005年の発売当時に読んでいて。いい漫画だと感じたし、映画になり得る作品だと思ったのを覚えてます。日常を描くヒューマンドラマなので、無理なく映像化できる気がしたんです。だから、主人公のオファーをいただいた時は、「あ、この作品知ってる!」とびっくりして、もう断る理由がなかったというか。
──主人公のかなえは銭湯の女主人。夫の悟(永山瑛太)が突然失踪するも気丈にふるまっていますが、実はあるトラウマを抱えてもいます。かなえをどう捉え、どんなことを大事にして演じましたか?
かなえは過去をずっと忘れてないし、決して逃げてもない。そのことを、どのシーンでも心にとめておくようにしました。はたからは忘れているように見えるだろうし、もしかしたら自分でも無意識なのかもしれないけど、実際は常に苦しみの中を生きてきた。ということはつまり、感情も揺れ続けているわけで。
笑っていても、それが心からの笑いなのかどうか、自分でもわからない。ふと過去にひもづく何かが起きた時には、気持ちがガツンと落ちてしまったり、過去がフラッシュバックしてしまったりする。きっと誰しも少なからず、そういうものを抱えて生きているとは思うんですけど、かなえの場合はことがことなので、だいぶつらいだろうなと想像しました。
──今泉力哉監督と組むのは初めてですが、どんなふうに演出する方でしたか?
いろいろな監督がいらっしゃる中で、今泉監督はわりともう自分の中でイメージが固まっているというか。だからディスカッションするとか、こちらの気持ちを伝えるというより、基本的には監督のビジョンに従う感じでしたね。
──今泉監督によると、真木さんと意見がぶつかることもあったそうですが、それはどんなシチュエーションだったのでしょう?
あるシーンについて、監督と解釈が割れたんです。私からすると、監督の意見はかなえに寄り添っていないように思え、「それじゃこの子がかわいそうです。ちゃんと生かしてあげてください」と訴えました。やっぱり私が一番かなえに寄り添っていて、彼女のことをよく知っているつもりだったので。解釈が割れたことで、「わかってくれていなかったのか」とかなり傷ついてしまって。
──話し合いの結果としてはどうなったんですか?
話し合ったのは感情面のことなので、芝居を大幅に変えるとかそういうことではなかった。「この子のことをもうちょっと考えてほしい」と伝え、監督からの「わかりました。ごめんなさい」で終わりました。別にけんかしたわけではないし、険悪な仲になってもいないので大丈夫です(笑)。
──井浦新さん、リリー・フランキーさん、永山瑛太さんと、メインキャストはいずれも親交や共演経験のある方々です。今回共演していかがでしたか?
新さんはまるで、樹齢何千年の樹のような佇まいの人ですよね。インスタを見ていても、「あ、山登ったんだ」とか、「こういう植物に出合ったんだ」とか、自然に関する投稿がたくさんだし。お芝居になるともちろんちゃんと……ちゃんとっておかしいわ(笑)。役になりきるんですけど、普段の新さんはそんな感じ。
リリーさんはズルいなって。原作者の豊田(徹也)さんが現場に一度いらして、それがちょうどリリーさんと二人のシーンだったんです。豊田さんはどうやらリリーさんが大好きみたいで、私には全然興味ないっぽかった(笑)。
──リリーさんはかなえの夫を探す探偵・山崎を演じていますが、豊田さんがリリーさんをモデルに描いたキャラクターだそうですね。
そうなんですよ。そんなこと言われたらね、もう私はこの場にいなくてもいいんじゃないかなとさえ……! やっぱり一緒に演じていても、リリーさんと、それから瑛太には持ってかれる。でも、持ってかれてもいいやと思って。しょうがないもん、こんなバケモンが来たら。
──かなえの学生時代の友人・菅野を演じた江口のりこさんとは、プライベートでも長年の親交があるんだとか?
江口に関しては仲がよすぎて、役柄上は久しぶりに会った友だち同士の設定なので、素の距離感をそのまま映像で出しちゃうとまずい。でも実際、私たち自身も会うのは結構久しぶりだったから、「おー江口じゃん。オファー受けてくれたの? ありがとう!」って感じで、わりと無理なくいけたかな。江口のことが好きすぎて、現場でずっと隣にいたし、向こうが離れても寄っていくみたいな。なんかいじりたくなるんですよね、江口って。
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Photo: Miyu Yasuda Stylist: Kie Fujii(THYMON Inc.) Hair&Make-up: Miyuki Ishikawa (B.I.G.S.) Text&Edit: Milli Kawaguchi