洋服のイメージにあわせ、まるで踊るように次々とポーズを決めていくアイナ・ジ・エンドさん。GINZA10月号「結局、いちばん強い黒と白」特集の表紙に、秋の新作に身を包み登場。今回の特集にまつわることから最近の変化や挑戦について聞いた。
アイナ・ジ・エンドさんに聞く、黒と白
モノトーンから力をもらう

背筋を伸ばしてくれる色
「黒と白」からは何を連想する?
「強い個性です。絵の具に例えると黒は青、赤、黄を混ぜて作ることはできても、どの色にも染まらない。むしろ、相手を呑み込んじゃいますよね。一方で白はライトブルー、ピンク、レモンイエローなどに変化します。それぞれと調和するしなやかさを持ちつつも芯はブレない。ふたつともライヴの衣装で着ることが多いんですよ。袖を通すと身が引き締まりますね。特に後者は淀みもない。最高のパフォーマンスができそうだと自信も持たせてくれます。7月に小林武史さんら大先輩たちと共演した『ap bank fes ’23〜社会と暮らしと音楽と〜』でも白いドレスを選びました。BiSHのファンクラブ企画で肌色診断をしたことがありまして。〝ブルベ冬〟に分類されました。そのためパキッとしたカラーと相性がいいみたいです。だから惹かれるのかもしれません」
今回は6パターンのモノトーンのコーディネートをまとった。
「鏡の洋服にファッションの底力を感じ、パワーをもらいました」
アイナ・ジ・エンドさんの心をくすぐったのは〈クレージュ〉のワンピースだ。胸と腹部にミラーを装飾した大胆なデザインである。 「スペースエイジな雰囲気がかわいい。隙間から肌が見えるかもしれない、という、思いがけない緊張感もありましたが(笑)」
運命の出会いの先にあるもの
誌面で共演を果たした愛犬の葉蔵さんもこの2色の毛を持つ。
「2019年の夏に一目惚れをしまして。とはいえ、さすがにすぐは決められませんでしたね。手に入れたらそれで終わりというのではなく、育てていかないといけないから。でも、頭から離れなくて。その後すぐに出演した香川のフェスで一緒になったアーティストの方々にも、犬を飼いたいと相談していたくらいです。そこで皆さんが肯定的な意見をくださって。だから、東京に戻ってまだショップにいるようだったら、家族の一員にしようと思い、足を運びました。そしたら、姿が見えた。晴れて、仲間になりました。葉蔵さんがいてくれるだけで、毎日がとても楽しい。でも、昨年はツアーと映画の撮影や舞台でほとんど都内を離れていたため、大阪の両親に預けていたんです。その間は父が弾んで、何度も散歩に出ていたようです。そんな葉蔵さんはBiSHの解散直前に戻ってきてくれました。そうしてまた同居をしています。おかげで今はすごく幸せです」
独特な名前の由来は?
「太宰治の小説『人間失格』の主人公です。なので、正式名は大庭葉蔵さん。とにかく女性にモテるキャラが好きで。そうなってほしいなぁ、なんて、期待を込めてつけました。そしたら、現実になっちゃった(笑)。公園で遊ぶたびにほかのワンちゃんに近づくんですよ。名は体を表すとはこのことですね。近頃は接近を控えるようにしつけているほどです」
ずっと歌ってダンスがしたい
去る6月29日、8年にも及ぶBiSHの活動に幕を下ろした。そのわずか4日後にはアイナ・ジ・エンドソロとしてデジタルシングル「宝石の日々」を配信リリース。間髪入れずに第二章を走り始めている。その心境は?
「あ、そっか、もう次のステップに移ってるんだ!いま聞かれるまで自覚もしていませんでした。なんか、不思議な感じだな。ライヴが終わってから1週間はまさに抜け殻でしたね。直後にあったラジオのレギュラー番組『アイナLOCKS!』で、いつも2パターン用意している衣装を忘れていたくらい、なにも考えられなくて」
在籍中から解散後の身の振り方をヒアリングされていても、答えはなかなか出せなかったそう。
「私は本当にギリギリまで進路に悩んでいたんです。理解はできていても、心がついていけず。どうしても次の未来が描けなかった。ただ、歌とダンスをする人生であることだけはわかっていました。いっそのことまったく違うジャンルの音楽の世界に飛び込んでみようか、とか、いろんなパターンを考えたものです。揺らぐ日々でふと『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023』に挑戦したい想いが湧き上がってきて。すぐ社長に伝えました。BiSHで経験してきた舞台に今度は一人で立ちたいと。そこから私の第二ステージが動き出すと直感したから。終わりは何かの始まりでしかないですし!」
対話によって表現力が磨かれた
アイナ・ジ・エンドさんがソロ活動をスタートさせたのは、2021年のこと。そこで1stアルバム『THE END』のリリースをはじめ単独でのツアーも経験する。この頃、小誌にも一人で登場。「インタビューは脇汗をかくくらい緊張する」と語っていた。そんな2年間を過ごしていくなかで、スタンスに大きな変化があったようだ。
「おしゃべりが楽しくなったんですよ!それまでは自分の気持ちの言語化がすごく苦手で……。言葉に詰まることも多く、高校生の頃なんてほとんど誰とも口を聞いてなかったですね。人と会話するよりも、踊っている時の方がまともに呼吸できていましたし。また、最近まで『ミュージシャンは孤独じゃないと名曲を生み出せない』と自分を追い込んでいた節もあります。特に制作期間中は悲しい出来事が起きても、誰にも打ち明けませんでした。だって、喋って浄化されると困るから。大事な感性が抜け落ちていくのがなによりも怖かったんです。曲ができなくなるのが心配で。でも、生きていくうえでは誰かに聞いてもらわないと、けっこうきつい。それに、私が話すと相手も心を開いてくれますしね。心を通わせて友情を育むという流れが楽しくて、コミュニケーションを図る醍醐味を知りました。今は、悩みは告白しても大丈夫だし、胸にしまっておきたいのであれば無理して伝えなくてもいいという風に変わりました。大人になったのかな。あ、でも、逆にうれしかったことはめっちゃメモに残しているかも。いっぱいためて作品へと昇華したいので」
感情の扱い方が変わり、軽やかになった。これから紡いでいく歌はハッピーな雰囲気であふれていそうだ。
「うーん。それはちょっと違うかもしれないな。穏やかだけど切ないっていうバイブスなんですよね。『宝石の日々』は、そんなムードが反映されているかもしれません」
一人で舵を切り始めた今は、先輩が歩んできた道も気になるそうだ。
「テレビで共演したAIさんとランチをしていた時に『ママになるとまた違った視点で曲が書けるようになるよ』と話してくださったんです。目からウロコでしたね。経験によって歌もダンスも進化をしていく。アーティストとしての指針を授けられた気がします。かっこいい女性の話をもっと聞きたいですね。最近では、大人が集まるバーに繰り出してみたいとすら思っています。いろんな世界を切り拓いてきた方々に会えそうだから。ヒントを頂戴しながらアップデートをしていきたいものです」
創作のお供はアロマと花
曲が生まれるのはスムーズなのだろうか。
「まったくです!一昨日もしっくりとくるフレーズが浮かばなくて朝の7時まで粘っていましたよ。メモに残している言葉とメロディがうまく嚙み合わないケースも多いです。私はストックがあるからといって、スルスルとは出てこない。さらにいうと、締め切りを守れるかどうかは別問題のタイプのようです。関係者のみなさんには、合わせる顔がないのですが……」
明け方まで試行錯誤を重ねつつも、堂々巡りにならない工夫も凝らす。
「さっきのエピソードでいうと、後輩グループの振り付けを考えたり、ベースを鳴らしてみたりしますね。それだけに集中し過ぎると煮詰まるので、いったん寝かせるようにもします。ちょっと距離を置いてからの方が、出来栄えがよくなりますからね」
主に家でクリエイションをするため、過ごしやすい環境を作ることにも心を砕いている。
「緊張をやわらげるために、ヒノキのアロマを焚いています。森のにおいが漂う空間にYouTubeで焚き火の動画を流す。夏は窓を開けてセミの泣き声もプラスします。室内にいながら、キャンプ気分に浸ります。パチパチと燃え盛る炎を見つめるうちに癒やされて、創作意欲が湧いてくるんですよね。それから、お花も必ず飾っています。今は涼しげな印象を与えてくれるデルフィニウム、華やかなアルストロメリアとガーベラを品種ごとに生けているかな。行きつけのフラワーショップが数軒あって、訪れるたびに花の名前を教わっているんですよ。その会話も楽しくて。以前は直感で選んでいましたが、知識を吸収したいので、手にするものは必ず聞くようにしています。そのなかにパピヨンのいるお店があって、会いたいあまりに顔を出すことも」
ふだんの暮らしを大切にする様子もうかがえる。
「実は、私の家に遊びにきた友達から部屋の〝気〟がよくないと指摘を受けまして。でも、それは経験や感情を糧にしてゼロから作品を生み出すアーティストにとっては、すごくいい環境のようです。役をリセットする必要のある俳優だと巡りのよさは必須らしいのですが。とはいえ、運気が下がるのはやっぱりちょっと気になるので(笑)。そういう捉え方もあるんだと感心しつつ、自分なりの浄化法としてアロマや花を取り入れています」
「役者」で見えた新しい景色
10月13日には初主演の映画『キリエのうた』が公開。この体験を通じて、表現者としての覚悟がより強固になっていった。
「照れてられないなと思ったんです。画を作るために、照明さんや音声さんなど、あらゆる職種が関わっています。皆がそれぞれの力を合わせて、ストーリーを創造する。カメラの前で役を全うするのが演者としての責任です。共演した広瀬すずちゃんは本番が始まった途端に、黒目に魂が宿るんですよ。あぁ、これが本物の俳優なんだと、刺激を受けました。自信がないとなにもできない。当たり前かもしれませんが、それが分かりました」
アイナさんが演じるのは、歌うことでしか〝声〟を出せない路上ミュージシャンのキリエ。音楽がつなぐ13年にも及ぶ壮大な愛の物語の主人公に抜擢された感想は?
「え、どっきり!?と、信じられなかったです。レコード会社に岩井(俊二)さんが来てくださり、概要を説明してくださいました。高校生の頃に観た映画『PiCNiC』が大好きで、繰り返し鑑賞していました。初めて検索をした映画監督さんなんです。その方がストーリーの主演にしたいと。そんな奇跡があるなんて!」
劇中では魂に訴えかける歌声を披露。また、劇中曲を6曲手がけた。アイナ・ジ・エンド名義のものと違いを挙げるとすれば。
「言葉のチョイスですね。キリエは喋れなくなったことで、語彙をあまり持ち合わせていないんだろうなぁと想像しました。そのため『楽しいを迎えにいこうよ。月くらいなら迎えにいくよ』といったように大きな規模でしか表さないようにしています。そこをすごく意識しましたね。創作中は岩井さんとやりとりを重ねました。ある時、深夜にデモを送ると、ピアノで弾いたものを収めたボイスメモで返信がすぐにあってアドバイスが添えられていました。音楽を担当されている小林武史さんとともにものづくりに対する真摯な姿勢は、とても勉強になりました。私も現場で目をキラキラと輝かせる60代になりたいと思ったものです」
人生を彩る歌を更新していく
会話せざるをえないシーンでは声を絞り出す。銀幕デビュー作にして、ハードルの高い役どころでもあった。
「コミュニケーションが得意でなかった私にとっては、理解できるツボが多かったです。そのためキリエにどっぷりと浸かっていたほど。撮影の合間にBiSHのライヴがあったんですけれど、メイクの仕方を忘れていて。ハシヤスメ・アツコさんが『本番10分前だよ』と教えてくれて、我に返るということもしばしばでした」
二足のわらじをはく日々で、寄り添ってくれる存在に助けられた。
「もう本当にハシヤスメ・アツコさんはすごくて。絶妙なタイミングで『アイナは頑張ってるねぇ』なんて、声をかけてくれるんです。そこで『いま、やばいかも〜』と弱音を吐くと笑ってくれたり。それだけでずいぶんと軽くなったものです」
全身全霊で挑んだ本作。オフコースの「さよなら」と久保田早紀の「異邦人」が象徴的な役割を果たしていた。アイナさんのこれまでを表すとすれば、どんな曲になるのだろう。
「数えきれないくらいたくさんの歌に影響を与えてもらっています。自分の曲にはなるのですが『きえないで』になりますね。それらの影響を吸収して初めて形にできたので。若さゆえの初期衝動を孕んでもいます。正直、この先、これを超えられるかちょっと不安なくらい。でも、30歳だからこそ奏でられるメロディもある。だから、その都度、人生を代表するベストソングを更新していきたいですね」
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アイナ・ジ・エンド
あいな・じ・えんど>> シンガーソングライター。6月29日までBiSHのメンバーとして活躍。2021年2月よりソロ活動も行う。10月13日全国公開の岩井俊二監督最新作『キリエのうた』では映画初主演を務める。劇中の役名「Kyrie」名義で主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」を含むアルバム『DEBUT』を10月18日にリリース。
Model_AiNA THE END Photo_Masaya Tanaka (TRON) Styling_Ai Suganuma (TRON) Hair_Waka Adachi (eight peace) Make-up_Kie Kiyohara (beauty direction) Text&Edit_Mako Matsuoka