「これまでGINZAにはモデルとして登場してきたので、取材していただけるのが不思議です」。少しだけ照れくさそうにそう語ったのは、山本奈衣瑠さん。2019年に俳優活動をスタートして以来、主演・メインキャスト作が相次ぎ、国内外の映画祭を席巻している。最新作『ココでのはなし』(11月8日公開)は、あるゲストハウスを舞台にした心安らぐ群像劇だ。ワーカホリックな一面もあるという山本さんが、ホッとするために心がけているTIPSとは?
2024年注目の役者、山本奈衣瑠さんが語るマインドフルネス
「他人や機械に頼らず、そもそも在るもので自分を満たすことを大事にしています」

——最近、『SUPER HAPPY FOREVER』、『走れない人の走り方』、そして『ココでのはなし』と、山本さんの出演作をよく観ていて。
本当ですか。え、なんで……、「なんで」は違うか(笑)。ありがとうございます!
——スクリーンで山本さんを目にすると、無性にワクワクする。そういう俳優さんがいると、映画好きとしてはQOLが爆上がりするので、こちらこそありがとうございます(笑)。
そんなふうに思っていただいて嬉しいです。
——『ココでのはなし』の舞台は、2021年の東京オリンピック開催直後、都会の片隅に佇むゲストハウス「ココ」。山本さんは住み込みバイトの主人公、詩子を演じています。まず今作に参加した経緯から聞きたいです。
監督のこささりょうまさんと、お芝居が必要なドラマ仕立てのMV(さんひ「わかってるよ。」)を撮ったことがあって。その時は私、CMやMVには出たことがあったんですけど、映画で名前のある役を演じる、みたいなお仕事はまだ経験がなかったんです。でも、こさささんは「いつか映画を撮りたくて、その時にはぜひお願いしたいって昔から思ってました」と伝えてくれて。
——すでに俳優として、こささ監督の目に留まっていたと。
そういうお世辞を言う人って、世の中にいっぱいるじゃないですか。だから口では「ありがとうございます」と言いながら、内心“そんなこと言っておいて、どうせ違う人に声かけるんでしょ?”なんて思ってたんですけど(笑)。そしたら後日、本当に連絡があって、“本気なんだ”と驚いて。同時に、映画を撮るのって簡単なことじゃないから、それだけ熱い思いがある方なんだっていうのもわかりました。連絡があった時は、まだ映画デビュー作『猫が逃げた』の公開前で。
——撮影は終わっていた?
そう。でも上映がまだだったので、こさささん以外の方たちからしたら“コイツ誰やねん”状態で、言ってみれば、何も保証がなかったんです。一応、大人の事情でオーディションというか、1回お芝居を見せる機会を経て、正式に声をかけていただきました。でも、こさささんはずっと私のことを信じてくれていて、“絶対大丈夫だから、誰がなんと言おうとキャスティングする”くらいに思っていたみたいで。だから映画の完成当初は、“ちゃんと一緒にできたね”っていう嬉しさが一番大きかったですね。
——撮影は3年前?
はい。2021年です。
——山本さんが今作に寄せたコメントに、「本公開に至るまで言語が違う様々な国を映画祭で巡りました。時間をかけてゆっくりこの作品でしたかった事を経てやっと全国の皆さんにお届けする事が出来ます」とあります。「したかったこと」というのはなんでしたか?
この映画はすごく優しい作品で、突き詰めると伝えたいのは、“自分のペースで無理せずに、休憩することも大事だよ”ってことだけだと思うんです。シンプルだけど、すごく大事なこと。いろんな理由で、映画を観ることさえままならない方もいますよね。それは日本だけじゃなくて、それぞれの国で政治状況も異なるし、戦争が身近にあったり、災害が起きたばかりの国もある。大変な思いをしている方にこそ、ごはんを差し出すような温かい気持ちで、この作品に触れてもらいたいなと思っていました。それには上映に来てもらわないといけないから、本当に難しいんだけど、今回はこさささんが海外の映画祭をたくさん回ってくれたので。
——映画祭での印象的なエピソードはありますか?
2023年にトルコ・シリア地震が起きた後、こさささんがトルコの映画祭に参加していて、日本にいる私にも随時、現地のことを写真も交えて教えてくれました。かなりハードな状況でしたが、市民を元気づけるためにも、映画祭は開催されることになったんです。こさささんに聞いたことですが、観客の中には大切な誰かを亡くされたばかりの方もいたそう。それでも救いのような可能性を求めて観に来てくれたわけで。別に彼らの背中を押すのではなく、ただ隣にいるみたいなことが、この映画ならできる。日本でスピーディに劇場公開するのもいいけど、この作品は必要な人にゆっくり届けるべきだなと思っていたので、それができたのは自分がものづくりに関わる上で嬉しかったことですね。

[衣裳クレジット] シャツ(ウェル)/カーディガン(アナザーアスペクト)/パンツ(ベースレンジ)/靴*スタイリスト私物
Photo_Yudai Emmei Styling_Coco Kanayama Hair&Make-up_Boyeon Lee Text&Edit_Milli Kawaguchi