韓国のデザイナーでありアーティスト、イ・カンホの展覧会が開催中だ。アートディレクター前田晃伸が神楽坂にオープンした空間「パアマ/PAAMA」にて、インテリアデザイナー関祐介による内装のなか、ロープやケーブルを編んで作られたオブジェが並ぶ。2024年12月7日(土)まで。
編み込みが臓器のような造形を見せるイ・カンホの作品群
多目的スペース「PAAMA」での個展にて作家インタビュー

ソウルと済州島を拠点に活動するイ・カンホ。作品はモントリオール美術館やサンフランシスコ近代美術館にも収蔵され、現代美術作家としても高い評価を受けている。紐状の素材を編んでポット型のオブジェを形作るシリーズ「オブセッション(Obsession)」は、作家が17年以上続けてきたもので、シグネチャー的存在でもある。
今回の個展では、シリーズ名と同じタイトルのもと新作十数点が並べられている。会場は、アートディレクター前田晃伸が開いたスペース「パアマ」。美術やデザイン分野の展示を中心に、さまざまなカルチャーを交差させることを目指す場所だ。〈サカイ〉や〈キコ コスタディノフ〉の東京旗艦店も手がけた関裕介が内装を担当し、コンクリートや天井の配管があえて剥き出しにされている。
「展示用の作品を準備するにあたって、関さんが作ったこの空間を生かそうと思いました」とイが話す通り、展示スペースと作品とは不思議な調和を奏でている。
「『パアマ』の中を初めて見たときに、生き物の体内のような、グロテスクな印象を受けたんです。だから、自分の作品も“生きている”感じにしたかった。それで、臓器など人の身体を思わせる造形を意識しました。編み方も、全ピース同じにせずにいろいろなやり方を混ぜています。そのほうがこの場所に合うと感じられたから」
別々に編んだ二つの面を繋ぎ合わせたものもあれば、一気に編み上げたものもある。意外にも、制作にあたってスケッチは描かなかったそう。鮮やかなピンクやグリーンのPVCケーブルやクリアチューブ、ロープなどを組み合わせて一つ一つユニークな表情を生み出した。

制作用の材料は工場に特注することが多いが、黄色や青と黒などヴィヴィッドな色が混ざり合うロープは、街の登山用品店で求めた。日常の中のモノへの関心は、常にイの制作動機の奥にある。
「祖父母が農業を営んでいて、植物でかごなどを編んでいるのを小さい頃はよく眺めていました。手だけで何かを作り出していくことに興味を持ったのはそこからでしたね。制作活動を職業にしたいと思ったときに、祖父母のように用途のはっきりしているものを作るよりも、もっと自分らしいスタイルを探しました。それで今のかたちに辿り着いています。私が素材とするのは、自然のものではなく、街でも買えるようなもの。作る側としては、自然物はそのままの状態がいちばん美しいと思っていて。日本の藁細工なども見るのは大好きなのですが、自分が作品にしたいと興味を持っているのは工業的なマテリアルなんです」
ひたすら手を動かし、編んでいく作業。個展タイトルにもなっている「オブセッション(執着)」には、制作工程への思いが込められている。
「手のみで成り立たせる作業という点に我ながらマニアックな執着を感じますし、作業に没頭する自分の態度も執着的なものなのだと思っています。作れば作るほど、自分に出会うというか、材料一つ一つにそのときの自分のエネルギーが投影されていく。今回の展示品には、2008年や2015年に特注した材料も使っています。過去に由来する要素を編み込んでいくことで、時の積み重なりも作品に反映される気がします」


Photo_Takuroh Toyama Text_Motoko KUROKI