東京のカルチャー史に欠かせない、吉祥寺バウスシアター。その前身となる劇場の誕生から2014年の閉館まで、約90年を物語るのが『BAUS 映画から船出した映画館』(3月21日より公開)だ。もともと青山真治監督が温めていた企画を、2022年3月の逝去をきっかけに、親交のあった甫木元空監督が引き継いだ。映画館を主人公に映画を作るのは、どんな経験だったのだろう?
映画『BAUS 映画から船出した映画館』甫木元空監督インタビュー
「記憶は曖昧なパッチワーク」吉祥寺バウスシアター90年の物語

——本作は2014年に惜しまれながら閉館した吉祥寺バウスシアターと、この映画館を守り続けた家族をめぐる約90年の物語です。エンドロールに「喪失から生み出される死者を光で繋ぎ止めるとは認識するという事。たった一歩でも生きてる者と死んでる者とが前に進むために 青山真治」という文章が登場しますが、どこから引用したのでしょうか?
青山さんが書いた企画書の一部だったと思います。峯田和伸さんは青山さんから出演オファーを受けていますし、もう本当に撮影直前まで行っていたんです。この作品は言ってみれば、鈴木慶一さん演じる老人が、井の頭公園で家族の歴史を空想しているだけの映画で。歴史や記憶は記録をもとに上塗りされて、嘘か誠かわからない夢のように曖昧な部分も持っています。それくらい「記録と記憶というものはいい加減なのが面白い」というのは、前作『はだかのゆめ』の時から感じていました。その興味は今回も続いていて、この物語は映画館自体が主人公で、そこには名もなきストレンジャーたちの記憶が混ざり合っていく。実際の撮影でもいろんな視点を介在させたくて、主演の染谷将太くんとかその場にいたスタッフなど、複数人にカメラを回してもらったシーンもあります。
Photo_Yuka Uesawa Styling_Kaze Matsueda Hair & Make-up_Chiaki Saga Text&Edit_Milli Kawaguchi