「かっこいいってどんな人なのか」を知りたくて、フローリストの河村敏栄さんが今日はあの人に会いに行く。その日の花を携えて。
その日の花。vol.5 作家・吉本ばななさんへ
─── 見た目。そこに全部出てるなっていう、感じがしますね。 その見た目に表れるセンスのようなものがあればどうとでもなる。この世はセンス。最近本当にそう思います。
ずっと会いたかった人の優しい声とその眼差し。彼女の見た目には揺るぎない自分への信頼と、小説家としての仕事に対する覚悟がにじみでている。20代でデビューした彼女が、アーティスト、プロデューサー、時には経営者として下してきた数々の決断は想像していた以上に現実的で、へなちょこな私の頭に何度も盥が落ちてきた(笑)。偉大な小説家が教えてくれた人生の秘訣。「その人が、今日その時その瞬間にすることは、本当は一個しかない」。彼女のプロ意識が、体の中にそっと入ってくる気がした。この意味を深く理解するのは、まだ先の話かもしれない。それでも、ずっと自分の判断に自信が持てなかった私の今いる場所が、見えてくる。私が得意なこと、私のセンスのようなもの、それがつまった小さな店、そこに来てくれるお客さん達。辛い過去でさえ、私は私の人生が大好きだったんだ。
今月の花
吉本ばななさん行きつけの下北沢のカフェ「つゆ艸」にいるお猿様が上を歩いているような、翁草の花が終わった後の翁ボールと、姫小判草で作った小さな雲。そこに咲くのは壺型のクレマチス。下を向いて咲く姿の落ち着いた美しさは彼女の小説を思い出す。「いいお仕事をたくさんしてくださいね」。翌日メールで届いた言葉が今も胸に残っています。
花と文 河村敏栄 写真 松原博子
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吉本ばなな
作家。1964年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞を受賞。著作は30カ国以上で翻訳出版されている。近著は『吹上奇譚 第二話 どんぶり』。noteにて配信中のメルマガ『どくだみちゃんとふしばな』の本も発売中。
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河村敏栄
オーナーを務める東京・代々木上原の「MAG BY LOUISE」では、花のワークショップやレッスンをメインに、読書会などユニークなコンセプトの活動を行う。2018年にインディペンデント雑誌『FLOWER magazine』を創刊。現在第2号を鋭意製作中www.louise-flower.com
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松原博子
京都府生まれ。雑誌、カタログなどで活動。長く撮りためているヌード写真を1冊にまとめるため、現在版元を探している。www.hirokomatsubara.com
Edit: Akane Watanuki