「かっこいいってどんな人なのか」を知りたくて、フローリストの河村敏栄さんが今日はあの人に会いに行く。その日の花を携えて。
その日の花。vol.9 作家/俳優・内田春菊さんへ

─── この間電車の中で見かけたごっつい男の人。
でっかい荷物持ってて。わりと肉体労働していそうな人が、 12インチくらいのiPadを軽々と持って両手でガーッ!ってゲームしてんですよ。
みんなから見えるじゃないですかiPadの中って。
でも気にせずダーッ!ってやってて、降りる駅になるとパッて去ってった。 かっこええ〜って思って。あれは笑った。
内田春菊さんは怖い人だ。彼女が作品を作る時の視点や視線は、後からじわじわ響いてくる。今回も、私の人生を不自由にしたり窮屈にしている正体のひとつが、実は自分の中の無意識な差別だったかもしれないって気づかせてくれた。「フェミニストってご自分のことをおっしゃり始めたきっかけってなんだったんですか?」「そうすると守れる感じなんですか?合体ロボが合体できるみたいな?」。
逆に質問されて答えられなかった。今まで考えたことがないわけじゃない。彼女を前にすると、あれ?本当はどうだったんだろうと自問自答が始まってしまうのだ。いただいたごぼうのかりんとう(手作り!)をぽりぽりかじっていると、ほんのりとした甘さと一緒に、私の中に何かが入ってくる。自分の人生を、現実を、ちゃんと生きてきた人だけが持てる大きくて、あったかくて、世界で一番かわいいもの。
今月の花
仲良しだという櫻田宗久さんの新宿二丁目にあるアートバー 「Bar星男」の壁面をバックに、うっすらとピンクがかった大きな水無月を。ピラミッドアジサイとも言われていて、これは特に花つきが良いタイプ。赤くなる前のライム色がきれいなサンキライの実と紫色のエリンジウム・リーベンウォルシー。大きくてまるっこいものを産みたくなったので。
花と文 河村敏栄 写真 松原博子
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内田春菊
漫画家、作家、俳優、歌手。1959年生まれ。84年漫画家としてデビュー。93年に育ての父からの性的虐待を描いた初小説『ファザーファッカー』(文春文庫)を発表。2018年に母親の視点から同テーマを捉えた『ダンシング・マザー』(文藝春秋)を上梓。17年に大腸ガンで人工肛門を造設したことを公表、『がんまんが〜私たちは大病している〜』(ぶんか社)を描いた。shungicu.com
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河村敏栄
オーナーを務める東京・代々木上原の「MAG BY LOUISE」では、花のワークショップやレッスンをメインに、読書会などユニークなコンセプトの活動を行う。2018年にインディペンデント雑誌『FLOWER magazine』を創刊。www.louise-flower.com
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松原博子
京都府生まれ。雑誌、カタログなどで活動。www.hirokomatsubara.com