年末年始の長い連休がスタート。せっかくだから“いい休みを過ごせたな”と思えるアイディアが知りたい。色んなジャンルのモノやコトに詳しいあの人に聞いた冬休みの過ごし方。荒川区で食堂&ギャラリースペース「lavender opener chair・灯明」を営む冨樫達彦さんは何をするんだろう。
冨樫達彦さんが冬休みにしたいこと
「お正月の台所仕事」

店をやり始めてもうすぐ5年。今年はどんな年になるか、明日がどんな日になるか、良くも悪くも見通しの立たない生活の私としては、むしろ年末年始こそ一番予定が立っている。予定が立っていると言うか、つまりは毎年同じことをしている。
30日の餅つきに間に合うように、毎年12月29日には山形の実家に帰る新幹線に乗る。一年に一度の仕事を待っていた木の道具たち、杵と臼、ついた餅を入れる器、餅を丸める作業をする台、丸めた餅を入れる箱やらが2階の物置から降りてくる。それらは私よりもみな古い。2回に分けて餅をつき、家族総出でひとつひとつ丸くかたちを整える。意外とコツのいる仕事で、小さい頃、最初のうちは下手くそな形を沢山作った。初めて綺麗な丸にできるようになった時、一人前になった気がして嬉しかった。餅をつくのは年が明けたら食べるためだけれど、神様にお供えする鏡餅を作るのも忘れてはいけない。餅が大きくなれば綺麗に丸くかたちを整えるのもそれだけ難しく、誰がその責任を担うのか、去年はああして失敗したから今年はこうするのだとか、毎年家族の揉め事の種になる。仕事が終わると、少しだけよけておいたつきたての餅を味見とばかりに昼ごはんに頂く。つきたての餅よりも美味しいものは他に何もないんじゃないかというくらいに、これは美味しい。
翌31日大晦日の台所は朝から忙しい。一年の最後の食事を食い納めと言って、これは献立がおおよそ決まっている。きんぴらごぼう、大根なます、納豆、鱈の煮付け、納豆汁、白米。これをまずは家のあちこちにいる神様、仏様、お稲荷さん、それに大黒様にそれぞれ運んで、一年の無事を感謝する。それから家族が揃ってこれを頂く。

ちなみに納豆汁というのはその名の通り味噌汁に納豆を入れたもので、これは冬になると時々うちの店のメニューとしてお出ししたりしている。大事なのはすり鉢で大粒の納豆をよく潰すこと。これが中々大変な作業で、ネバネバぬるぬるとすりこぎから納豆の粒が逃げていくものだから、中々骨が折れる。いらいらして力任せに大雑把な仕事をすると、余計に納豆が糸を引いて潰れにくくなるから、くれぐれも気長に一粒ずつ数えるように確実に潰すのが結局は一番の近道だと気づくことになる。豆な仕事とはまさにこのこと。あるいは賢い方ならそもそも挽き割り納豆を買ってくればよろしいとお考えかもしれないが、これではほんとうの納豆汁の味にはならないと、代々の言い伝えによって禁じられている。きっとご先祖に横着な輩がいらっしゃったのだと思う。山形では納豆汁の具には豆腐、芋がら(里芋の茎を干したもの)、葱、もだし(塩蔵したきのこの一種)がスタンダードだけど、東京では気軽に手に入る食材に変えている。私の好みは、豆腐、薄揚げ、セリ、葱、なめこ。味噌に納豆を溶いて豆腐を入れるのだから、大豆の七変化である。あとは、鰹出汁をしっかり目に引くと素晴らしく美味しくなる。納豆でとろみがついて冷めにくく、一口啜れば確かにこれで寒い冬も豆に過ごせるような気がしてくる。話を戻して、大晦日の夜は紅白歌合戦を見ながら年越しそばを食べる。お昼に一年の食い納めだなどと言っておきながら、これには先祖代々誰もつっこまなかったのだろうか?蕎麦は神様に供えさえしないのだから、人間は恐ろしい。

Illustration_moka Edit_Tomoe Miyake