作家、朝倉かすみが綴る全7話のウェディングモノローグと〈NOVARESE〉のドレススタイル。自分らしい、自由なブライダルを叶える、連載ストーリー第4回。
ノバレーゼ × 朝倉かすみ 連載短編小説 monologue:my wedding stories 第4回「アルバム」

第4回
「アルバム」
ばぁばが花嫁になったのは半世紀よりも前のこと。
ばぁばは二十三歳だった。本人曰く、おしゃれなデパートガールだったらしい。なるほど写真を見てみると、銀幕の女優みたいなエックスラインのドレスを好んで着ている。太めのアイラインを目尻で跳ねさせ、小ぶりのワンハンドルバッグを肘にかけていた。
一方、じぃじは二十六歳の大工職人。ばぁばが言うには女心などちっとも解さぬ堅物中の堅物だったそうだが、例えば商売道具の鉋かんなを調整するときの、金槌で叩いて刃を出したあと裏返し、ツッと目の高さまで持ち上げて刃の出具合を確認したりするそのようすはまことにもって繊細で、フンなにさ、鉋かんなばっかりと拗ねたくなるほどだったという。
披露宴は親方の家のいちばん広い和室でおこなわれたらしい。
じぃじはブラックスーツに斜めストライプのネクタイを合わせ、ばぁばは肩のあたりに羽ばたく鶴の模様の入った黒い着物を着た。ふすまを背に、神妙な顔つきでかしこまる若き日のじぃじとばぁばの写真が、わたしはこどものころから好きだった。ばぁばの家にあそびに行くたび、栗色の革の表紙のアルバムを見せてもらった。それは七五三のお祝いからスタートするばぁばの青春物語で、つつましやかな華燭の典がエポックとなっている。
それぞれの目の前には旅館で部屋食をいただくときに出てくるような一人用のお膳があって、ごちそうらしきものがちまちまと載っていた。存在感を放っているのは尾頭付きの焼き魚。イヤッホー!と海面を跳ねるすがたで塩を振られていた。
新郎新婦は列席者ひとりひとりにお酌して回ったようだ。じぃじの両親、ばぁばの両親、じぃじの親方ご夫妻、ばぁばの上司ご夫妻。列席者の皆が皆、お歴々と呼びたいくらいの大人たちだった。
「ねぇ、ばぁば」
ある日、わたしはばぁばに訊いた。
「どうしてじぃじとばぁばの友だちがいないの?」
招ばなかったの?せっかくのパーティなのに、と言うと、「あっ、ホントだ」、ばぁばも初めて気づいたような顔をした。
「どうしてだろうねぇ」
首をひねり少し考えてみたようだったが、思い出せなかったらしく、「今とは時代が違うから」と雑な理由で話題を打ち切り、アルバムをパタンと閉じた。栗色のアルバムはそこでおしまい。つづきは赤いびろうどの表紙のアルバムで、一ページ目に生まれたばかりのママの写真が貼ってある。
アルバムをめくるたび成長していくママの笑顔、泣き顔、膨れっ面を指差して、ばぁばと笑い合った。赤いびろうどのアルバムはママが小学校に上がる年で終わっていて、それから何冊かのアルバムを経て年ごろになったママはパパと出会い、結婚する。パパはグレーのタキシード、ママは背中のあいたドレスを選び、シャンパンと、花と、たくさんの友だちに囲まれて、喜びを躍らせた。
かくして、と、不意に大げさな言葉が胸に浮かぶ。かくして、わたしはこの世に生まれた、そうつづけたら息が漏れた。夜空を横切る星の軌跡が見えるようだった。お腹に手をあててみる。もっとも新しい光の跡が、そう、ここにある。
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朝倉かすみ
作家。1960年北海道生まれ。デビュー作は『コマドリさんのこと』(2003年)。『田村はまだか』『満潮』など数々の人気作を手がける。昨年、『平場の月』で山本周五郎賞を受賞。近況は「足底筋膜炎、発症!かかとの痛みをやわらげるインソールを模索中です」と朝倉さん。
ゴールドビーズが描く
「光の足跡」
上品なブラウンのチュールにゴールドのビーズがライン状に広がる幻想的なドレス。ディレクターの城さんがイメージしたのは「光の足跡」だ。
「メタリックではなく、柔らかな印象のゴールドに着地したかったので、チュール素材に光を放つビーズ刺繍を施しました。これみよがしな煌めきよりも、そっと輝くゴールドが花嫁の心情にぴったりだと思います」
上端には装飾のないチュールを差し込むことで、ビーズが直接肌にあたらないよう配慮されている。
「デザインが気に入って決めたドレスでも、着心地が良くないと思い出すのも嫌な気持ちになりかねないですよね」と城さん。大切な日をできる限り心地よく過ごせるように。その着心地へのこだわりは〈ノバレーゼ〉がデザインで大切にしているひとつだ。
エレンガントな表情にもう1点、個性を際立たせているのがネイビーのサッシュベルトの使い方。
「チュールのワンピースドレスはふんわりとぼやけてしまわないよう、ウエストをマークするのがおすすめです。あえて同系色ではないネイビーのベルトを用意したのですが、ワントーンにまとめたい方はブラウンの長めのリボンで少し動きをプラスしてあげるのもいいと思います。黄金色の麦穂に象徴される、成熟した華やかさのあるゴールド。その豊かな輝きで、ぜひあなたらしいウエディングを彩ってみてください」
ドレス¥1,020,000*購入価格、¥350,000*レンタル価格(ノバレーゼ)、イヤリング*参考商品(以上ノバレーゼ銀座)
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城 昌子
〈ノバレーゼ〉ブランドディレクター。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ美術学校卒、プレタポルテのデザイナーなどを経て現職。ドレスやテキスタイルのデザイン、バイイングにスタイリング、ブランドのディレクションを行う。
問い合わせ
ノバレーゼ銀座
Tel. 03-5524-1117
Photo:(landscape)Yuka Uesawa Text&Edit: Aiko Ishii