クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.17 自分で選んだ寂しさは
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.18 この道も、いつか来た道、に

vol.18 この道も、いつか来た道、に
LINEの未読欄に、泣き笑いの絵文字がひとつ。
液晶画面を親指でタップすると、絵文字の斜め右上に、既読の文字が付く。
「誕生日何がしたい?」
その質問がもう既にプレゼントだったのと、特に思い付くことがなかった私は、
「26本ロウソクを立てた大っきいホールケーキを一緒に食べたい」と返信していたのだった。
スマホをポケットにしまい、鍵を刺しドアを開ける。
誰もいない部屋に、形だけの、ただいまを言う。
「誕生日ねー」
電気を付け、荷物を持ったまま椅子に座ってしまう。
数字がひとつ増えようが、減ろうが、どっちでも良いような気がした。
まぁ減ることはないわな、と自分で自分に突っ込みを入れ、よし、手を洗いに行こう、と。
だけど、立ち上がろうとして、私は、そのまま、リビングの床にぺたんと座り込み、最後にはうつ伏せになってしまっていた。
昼間、冬の日差しをたっぷり浴びていたであろう絨毯はふんわり気持ちがいい。
気をつけの姿勢のまま突っ伏しているせいなのか、いつか行った水族館で観たあざらしのショーを思い出した。
赤いボールを鼻に乗せていたあの子は、元気にしているのだろうか。
首に巻いたマフラーとマスクのせいで、息が苦しい。
首の向きを左から右に変えながらマスクを下げ、目を瞑る。
何か、何か、元気が出そうなお話。
記憶の中の箪笥をひとつ、ひとつ開けていく。
どれにしようかなぁと迷って。
男性のわりに、小さくて丸っこい、やさしい字を書くあの人のお話にした。
「40歳過ぎたらね、いつか来た道なんだよ」
スタジオで差し入れの和菓子を食べている休憩中だったと思う。
私が、分かるような、分からないような顔で耳を傾けていると、その人が笑いながら、続きを聞かせてくれた。
「40って、一般的には人生折り返しって言われているから。もうある意味で、はじめてがない、と言うか、少ないの。」
「だから、この道は、いつか来た道。」
「何処かで見たもの、聞いたもの。そう思うと、これから、怖いものなんてないのかもしれないな、って」
「そんな風に思うんだよ」
私は、12月で26歳になった。
そして、ふっと。
もうすぐ誕生日だね、って言葉に、やめてよーという常套句で返すようになったのはいつからだろう、と。
社会の流れの中で、なんとなくその役が自分にも回って来るようになって。
自然とそう振舞うようになったけれど。
私は一体、歳を重ねることの、何に、やめてよー、と抵抗して見せていたのだろう。
多分、きっと、年齢に見合った自分になれているか、の不安。
まだまだ紆余曲折、山も谷もあるんだろうなぁ。
だけど、何かに押しつぶされそうになったその時は。
「この道は、いつか来た道」
そう自分に言ってあげようと思う。
そして、そう声をかけてくださる先輩がいることは、とても有難いことだ。
年を重ねることは、人にも、自分にも、優しくなれることなのかもしれない。
今年の誕生日は、自分に優しく、生クリームたっぷりのケーキを食べようと思った。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri
Cover Illustration: Yui Horiuchi Edit:Karin Ohira