東京スカイツリーからすぐそばの下町、曳舟。長い間町に愛され続け、すっかりご近所の人々の暮らしの一部になった幸せな名建築を訪ねます。
近所の人々の暮らしの一部になった幸せな名建築「ユートリヤ すみだ生涯学習センター」:東京ケンチク物語 vol.31

ユートリヤ すみだ生涯学習センター
SUMIDA CULTURE FACTORY YUTORIYA
すぐお隣の駅に世界有数の高さを誇る東京スカイツリーが完成したり、駅周辺に高層マンションが出現したりと、この10年ほどですっかり景色が一新した曳舟駅周辺。でも、少し歩けば様子はがらりと変わる。くねくねと曲がる細い路地、小さな個人商店の連なり、立ち並ぶ電信柱や銭湯……。生活感があふれ出すような下町の景色はなんだか懐かしく、ぶらぶらと散歩するうちに肩の力が抜けていく。「ユートリヤ すみだ生涯学習センター」が建つのはそんな光景の中。緩やかにカーブしていく線路沿い、全面を覆う白いパンチングメタルの面が特徴的な建物だ。1994年に完成したこの建築、設計は長谷川逸子。安藤忠雄や伊東豊雄らと同世代の長谷川は、建築家として名前の通った日本人女性の中では最初の1人だ。時代の先頭に立って女性建築家の道を拓いてきた人物で、関東ではほかに神奈川の「湘南台文化センター」の設計もよく知られている。
こちらの「ユートリヤ すみだ生涯学習センター」は、その名の通りにさまざまな生涯学習や地域活動の拠点となる場。サークル活動や大小の集まりが行われるほか、カフェや墨田区の出張所も入る。不規則な三角形の敷地に長谷川がつくりだしたのは、3棟からなる建築だ。棟同士はブリッジや連絡通路でつなげ、全体をパンチングメタルで覆っている。だから遠目からは大きなひとつの建物に見えるのだが、敷地に一歩入ると印象がまるで違う。敷地にランダムな角度で建つ棟同士の間は路地になっていて、路地に向かってガラス張りで開放的なつくりの各棟や、連絡通路のあちこちを行き来する人々が見える。さらに建物内の各教室にも大きな窓が設けられているから、敷地内のどこにいても何かしら人の気配を感じることができる。不規則な形状の路地も、ここに来れば誰かに会えて言葉を交わせることも、そのままに周辺の下町・曳舟のあり方のよう。習い事やワークショップに、イベントに……と、足しげく、そして長い期間通い続ける近隣の人々が少なくないという。ガラスや鉄でつくられた現代建築そのものなのに、昔ながらの町の風情とありようをきっちりと映しとった秀作だ。