料理という究極の日常。そこでは使い勝手のよさこそがすべて。1820年創業の「E.ドゥイルラン」はまさにキッチン用具の“宝島”。すべては、食卓の喜びのために!
パリの老舗台所用品店「E.ドゥイルラン」を探検!

パリ中心地、レ・アール。深緑の外壁に、ショーウィンドウでは銅鍋がぴかぴかと照っている。ユージーン・ドゥイルランが開いた台所用品店は、1890年からここにある。
「当初から、料理人たちによい道具を提供することを軸にしてきました」と教えてくれたのは、4代目のエリック・ドゥイルランさん(上写真の人物)。いわく、ここではすべてにおいて「実用性」に重きを置いている。天井から鍋やざるがつり下がっているのは、ディスプレイではなく、スペース有効活用のため。商品のほとんどは包装されておらず、ラフに、しかし効率的に陳列・収納されている。実際に手に持って選べること。料理人にとってそれこそが重要だという考えは、創業時からずっと変わらない。
その圧巻の品ぞろえゆえに、店舗には個人客や旅行者も多く訪れる。「仕入れ基準はプロ向けですが、万人に開かれた店です。ただ、スーパーで見つかるようなものは売りません」
人気はやはり銅製品だという。伝統的なのは、内側に錫メッキを施したもの。サイズの豊富さは店内を見れば瞭然。熱伝導性と保温性に優れた銅なら、浅い鍋を食卓にそのままサーブしてもいい。「料理が温かいままなので、食事を分け合うシーンに向いていると思うんです」とエリックさん。日用品への愛はそのまま、大切な人と過ごす日常への愛につながっている。
他にも、フランス製のトラディショナルな道具、日本製の包丁、現代的なアイデア商品までが一堂に会す。「専門店のイメージは守りますが、今のものでよいものがあれば、取り入れない理由はありませんよね。大事なのは、製品として信頼できるかどうか。伝統は、それに縛られるものではなく、〝アール・ド・ヴィーヴル〟(生活美学)ですから。料理も、社会とともに進化していくのではないでしょうか」
美食の国の知恵と歴史がぎゅっと詰まった空間。今日も、確かな良品を求める人でにぎわう。