代官山の街そのものともいえるモダニズム建築の傑作の一角に生まれた、あのライフスタイルショップの新しい展開。アジアのデザインの最前線を知る空間です。
アジアのデザインの最前線を知る空間「ザ・コンランショップ 代官山店」
東京ケンチク物語 vol.49
ザ・コンランショップ 代官山店
THE CONRAN SHOP DAIKANYAMA
家具や食器、文具や収納用品、衣服……と、生活まわりのあらゆる物がそろう“ライフスタイルショップ”。日本にも店舗のあるイギリスの「ザ・コンランショップ」は、いまや私たちの生活には不可欠になったその業態の先駆けだ。1973年にロンドンに1号店をオープンし、現在も4カ国で展開する彼らが、最新の「ザ・コンランショップ 代官山店」で驚きの一歩を踏み出した。半世紀になるブランド史上初めて、イギリス発信ではなく日本側の“自主編集”によって買い付けやバイイングを行う店舗。しかもアジアにフォーカスしてセレクトするという。
ショップが入るのは集合住宅と商業施設からなる「代官山ヒルサイドテラス」の一角。建築家・槇文彦の代表作であるこちらは、1969年の第一期工事竣工後も少しずつ棟を増やし、98年にヒルサイドウエストが完成するまで約30年をかけてつくられた、日本のモダニズム建築の最高峰のひとつだ。代官山駅からすぐの旧山手通り沿いの両側に並ぶ、白い壁面や細い柱、ガラス面が印象的な各棟は、通り側の建物を低く抑えた圧迫感のないつくり。さらに敷地には広場や路地が取り込まれていて、訪れた人は自ずと回遊してしまう。周囲の建物もこの建築群に倣うように発展してきていて、名実ともに、街並みの核だ。この中で、「ザ・コンランショップ 代官山店」が誕生したのは、表通りからも見える2層空間と地階のフロア。内装デザインを手がけたのは建築家・芦沢啓治で、2層になった元の構造を活かしつつ、階段はより効果的な場所に位置替え。さらに通りとは反対側の、元はガラス張りだった一面を壁面にすることで、家っぽい親密さを感じられる場所を店内に生んだうえで、左官の手仕上げによる壁や天井、障子の骨組みを想起させる手すりや階段など、日本らしさのにじむディテールで仕上げている。モダンの極みのような槇の建築と、手しごとの痕跡が絶妙な塩梅で織り込まれているのがかえって現代らしい芦沢の空間。二人の建築家が一緒になって新たに美しい音楽を奏でているようなショップに、アジアがセレクトのキーワードとなる現代デザインシーンを映す品々が居心地よく並ぶ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto