独断と偏見で選ぶ国内外のマニアックな雑誌に特化したオンラインストア「Magazine isn’t dead. 」を主宰する高山かおりさん。世界中で見つけた雑誌やZINEから、毎月お気に入りの1冊を紹介します。前回紹介したものは『BIZARRE EDIBLE PLANTS』。
ソーシャルメディア時代で失われた感情をテーマにした『FeelsZine』 Magazine isn ’t dead Vol.11
ここ5、6年だろうか、突き詰めたコンセプトを持つ雑誌が本当に増えたし、どれもとても面白い。世界中でレシピを紹介するだけではない食を取り巻くカルチャーにスポットを当てた雑誌が急増し、コーヒーに特化した雑誌が多数生まれ、日本でも猫ブームが起きたように猫やペットをテーマとした雑誌が生まれ、プレーヤー向けではない多角的にスポーツを捉える雑誌が生まれていき…というようにまさに百花繚乱。従来の枠に留まらない突き抜けた雑誌の戦国時代に突入している。
中でも最近私が気に入っているのが、感情をテーマとしたカナダ発の『FeelsZine』だ。始まりは2016年の夏。「ソーシャルメディアが渦巻く世の中で、オンラインに変わる何かを創りたかった」と創設者のSarahとHannahはきっかけを振り返る。
「私たちのミッションは明確でした。正直に、本当の気持ちをさらけ出せる安全な場所を生み出すこと。そしてもっと繊細な感情について、開かれた対話を増やす手助けをすること。感情には“良い”や“悪い”はなく、その価値は私たちそれぞれがどのように関係し、経験するかによって決まると考えています」。
つまり、バーチャルの世界に浸りすぎていて本心を吐露できていないのでは、という問題提起ではないだろうか。まさにこの時代だからこそ生まれた雑誌なのだと思う。
特集は、「Anxiety(不安)」、「Lovesick(恋わずらい)」、「Anger(怒り)」、「Wanderlust(旅ごころ)、「Fear(恐れ)」、「Pleasure(喜び)」などと続き、先日発売した10号目では、「Loss(喪失感)」ときた。細分化されたテーマ付けには、女性的な視点も光っている。
毎号、表紙をめくるとまず表れるのはテーマに添ったイラストだ。表紙の色とも連動していて、最後のページも同じイラストで締めくくられている。それは、まるでラッピングペーパーのようにコンテンツを優しく包む役割を果たしているように思う。
寄稿される詩やエッセイなどは、あくまでも自身の経験を語るもの。「他の人へアドバイスをする場でないということが非常に重要だと思っています」と2人は続ける。その真意とは、複雑に抱く感情を他者に共有することで、まず自分自身が受け止めるということだと思う。
別冊的な立ち位置で詩や短文を集めた手のひらサイズのミニジンも制作しているが、その中に「Eulogy(賛辞)」というタイトルがある。これは家族の死別をテーマに詩とエッセイを募ったものだ。冒頭には、「永遠に心に刻む誰かを失ったときの愛と悲しみの感情は、私たちだけではないと思い出させてくれる」とある。
最近元気がないなとか、前向きになってほしいなとか。そんな気持ちをこの雑誌に込めて贈ることもぜひおすすめしたい。季節柄、環境が変わる人も多いだろう。誰かの言葉に救われることは、きっとあると思う。
一人一人が抱く感情は100人いれば100通りあり多様だ。そしてそれを自分の心の内に留めておくも、吐き出すのも選択は自由だが、素直に表現することで一歩踏み出せる大切さを『FeelsZine』は私に教えてくれる。
『FeelsZine』はこちらで販売しています。
この連載では、ginzamag.com読者の手作りZINEを募集しています。決まりがなく、自分を自由に表現できるのがZINEの魅力。オンラインストア「Magazine isn’t dead. 」の高山かおりさんに、自分のZINEを見てほしい!という読者のみなさま。ぜひGINZA編集部まで送ってくださいね。
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高山かおり
独断と偏見で選ぶ国内外のマニアックな雑誌に特化したオンラインストア、Magazine isn’t dead. 主宰。ライター、編集者としても活動している。生まれも育ちも北海道。セレクトショップ「aquagirl」で5年間販売員として勤務後都内書店へ転職し、6年間雑誌担当を務め独立。4歳からの雑誌好きで、国内外の雑誌やZINEなどのあらゆる紙ものをディグるのがライフワーク。「ニューヨーク在住で書店員のMitsuくんが昨年始めたBYE BYE NEIGHBORが面白いです。私と同じく雑誌に特化したオンラインストアですが、なんと感情に沿って雑誌をおすすめしてくれるというユニークさ。ぜひのぞいてみてください!」