広瀬すず×永瀬廉による青春ラブストーリー、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS火曜よる10時〜)。デザイナーとして才能を発揮する浅葱空豆(広瀬すず)と、デビューを目前に控えた海野音(永瀬廉)。大きな夢に向かって突き進む二人の関係は……。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが5話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。5話のレビューはこちら。
広瀬すず×永瀬廉『夕暮れに、手をつなぐ』6話。音のやさしさがスマホ画面からもにじみ出て

母と同じ道を辿る空豆
このドラマの最大の特徴といえば、浅葱空豆(広瀬すず)が発する、九州のいろんな地域の言葉が混じり合ったチャンポン方言。第1話からずっと、空豆は頑なに訛りを直そうとしない。自らの意志で訛ったままであることはこれまでも語られていたけれど、第6話でその思いがより詳らかになった。有名高級ブランド・アンダーソニアのデザイナーである久遠徹(遠藤憲一)から「標準語をしゃべれ」と言われた空豆は言い返す。
「標準語がそんなに美しかと? “標準”、聞いただけでつまらんがよ。みんな一緒。モードがもっとも嫌うことやなかと?」
その諍いのとばっちりで怪我をしたパタンナーの葉月(黒羽麻璃央)の手当てをしながら、空豆は初めて自ら母親・塔子(松雪泰子)について話す。母は九州で暮らしていたのに、「気取って東京弁しゃべりよる。好かん」。そのアンチテーゼとして、彼女は訛りを話し続けているのだ。
「遠くの人を楽しませる人は近くにいる人を悲しませるっとよ」。空豆はそう言って、モノを作る人を嫌ってさえいた。けれどもファッションの仕事にときめいてしまったが最後、空豆は母と同じ道を辿りはじめている。久遠からの真夜中の電話に、取るものも取りあえず駆けつけ、久遠がデザインする姿を食い入るように見つめる。久遠が有名俳優・犀賀(大友康平)のためにつくったパンツにためらいなくハサミを入れ、その場で自分が思いついたデザインを提案する。久遠は「あいつの怖いところはたぶん自分のデザインでさえ何のためらいもなくハサミを入れるだろうってことなんだよ」「次が見えてんだよ。次のアイデアがもうあるからだ。古い自分のアイデアにすがらない」と空豆の才能に恐れさえ抱く。
働き方改革で、一時期に比べると休日出勤や夜中までの残業は格段に減った。けれど人の心を奪うようなものを生み出すには、ときに時間を忘れて没頭することも必要で、自分のアイデアだけをまっすぐ信じることがたいせつなのだと、おそらく脚本家の北川悦吏子自身が感じているのだろう。自宅で真夜中まで音楽づくりをしながら、出かける空豆の足音をそっと聞いて口元を緩める海野音(永瀬廉)の表情からも、その気持ちが伝わってくるようだ。
セリフから、スマホ画面から伝わる音の「らしさ」
音の「歌姫」は、実家に帰ったマンボウ(増田貴久)とのユニットを解消したばかりのアリエル(内田理央)に決まった。才能を手に走りはじめた空豆を見守る音、音に「遠くへ行ってしまうとかね」とつぶやく空豆。互いに相手が遠くなっていく感覚を覚えているらしき二人は、響子(夏木マリ)のパエリアが炊きあがるのを待つ少しの間、シャボン玉で遊ぶ。その景色の美しさと、この時間がもう二度とこないかもしれないさみしさ。二人がいま過ごしている時間は、人生のなかで「おいしいのできるの待っとる」あいだの、ごくわずかのことなのかもしれない。
しかし、アリエルはレコーディングをすっぽかし、マンボウの元へ。ユニットは白紙になってしまう。そんなときでさえ激昂するどころか「もうちょっと早くに考えてほしかった」とトーンを変えずに言う音が、らしすぎる。
「参ったよ。これから歌姫なんて、つかまんないしさ。空豆、歌える?」
「いや、お前、オンチだったよな」
「あ、ごめん。オンチは言いすぎた」
空豆のスマホに並ぶメッセージからも、音のやさしさがにじみ出ている。もしも空豆が歌えて、音も驚く美声の持ち主だったらこのドラマは全然違う方向へ行くのだろうけど、ここで音からの連絡に気づかないほど空豆が没頭していたのはセイラ(田辺桃子)の歌声だった。
同じ方向を見る二人
次週以降、きっとセイラが音のミューズとしてユニットの歌姫になるのだろう。新しい服のデザインに頭を悩ませる空豆も、千春(伊原六花)から「ミューズが必要」とアドバイスをされていた。もしかしたら、空豆がセイラをイメージした服を作ったりもするのだろうか。
5話で音の曲を社長に認めさせるため、空豆が即興でドレスを仕立てて行ったゲリラライブは、空豆と音、二人の共同作業だった。ひとつの目標に向かってそれぞれの力を発揮してなにかを作り上げる、それはときに恋や愛よりも尊い二人だけの関係だ。音の新たなユニットのために再び空豆が才能を発揮するなんて素敵な展開に期待してしまう。けれど、なぜだかどうしてもこの二人は、いつか遠く離れてしまうであろう寂しい空気をまとっている。
「愛とは、互いに向かい合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることだ」というフレーズをよく聞く。サン=テグジュペリが言ったとされているこの言葉が真実だとしたら、ともに夢に向かいながら互いを気にかけることのできる二人は、とても強くつながっているはずなのだけれど。
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典、淵上正人
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、夏木マリ、松本若菜 他
プロデュース:植田博樹、関川友理、橋本芙美、久松大地
主題歌:ヨルシカ『アルジャーノン』
エンディング曲:King & Prince『Life goes on』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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