広瀬すず×永瀬廉による青春ラブストーリー、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS火曜よる10時〜)。夢への大きな一歩を踏み出した空豆。音も会心の一曲を守り、本格的なデビューに近づきます。そんな二人の距離は……? ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが5話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。4話のレビューはこちら。
広瀬すず×永瀬廉『夕暮れに、手をつなぐ』5話「このこたつの90度が僕たちの距離だ」
「おしん」みたいな空豆の頑張り
4話で突然ファッションへの興味と才能が花開いた浅葱空豆(広瀬すず)。5話では海野音(永瀬廉)の曲をゲリラで社長に聞かせるというイソベマキ(松本若菜)の策略に乗っかって、一度も作ったことのないはずの服をその場で仕立て上げるという驚異の能力を見せつける。
何時間もかけて服を解体するほどの「情熱を買った」響子(夏木マリ)の紹介で、空豆は「高級有名ブランド」アンダーソニアへの入社が叶う。デザイナーは響子の美大時代の同級生・久遠徹(遠藤憲一)。気に入らないデザインの服は破る。デザインのこだわりを軽視するファストファッションブランドのバイヤーとのWeb会議では、モニターを破壊してコラボを白紙に戻す。時代にそぐわないパワハラ気質ともとれる久遠の振る舞いだが、その根底にある服づくりに対する信念を社員も、空豆も理解し納得しているようだ。
庭の草刈り、弁当やお茶の手配、トイレ掃除、デザインとは程遠い雑用を懸命にこなす空豆。クラシカルな下積み描写が続いたあと、「なんか『おしん』みたい、見たことないんだけどね」とパタンナー・葉月心(黒羽麻璃央)のセリフでさらりとツッコむところがうまい。
20代の若者が抱えるそれぞれの悩み
5話はまだ何者にもなりきれていない20代の若者たちを描く群像劇のようでもあった。
100年続く老舗そば店を継ぐ立場の千春(伊原六花)。彼女は「あそこから動けない」「そこ(老舗)にあぐらかいてんの」と、重圧を感じもし、いっぽうで甘えてもいる自分を悟っているようだ。思えば千春は最初から空豆に対して積極的に動くようアドバイスをしていた。あのふるまいには、将来が決まってしまっている自分の願望が反映されていたのかもしれない。
音に電話をかけてきたセイラ(菅野桃子)は、初めて話す空豆にひとりの寂しさをぶつける。3話で、妹の借金をかぶっていたセイラは、詐欺まがいのことをしてまで音からお金を借りようとしていた。そのときに音が「いのちの電話」と看破したとおり、誰でもいいから声を聞きたいというつらい夜を過ごしているらしい。
音は渾身の一曲を守るため、世話になったイソベマキにさえ反抗する強さを身に着けた。その強さは、そばにいる空豆が突然才能を発揮した姿を目の当たりにして得たものだ。そして空豆も、夢に向かって大きな一歩を踏み出した。
セイラを元気づけた空豆だが、その夜、母に置いていかれた日の夢を見てしまう。初めての出社前日の緊張か、セイラの寂しさに影響されたのか。目を覚ました空豆は音の眠るこたつに行き、少し話して、一緒に眠る。そばに誰かいてくれることの安心感。
「音もおいも 夢のはじまりに 立っとるような気のするっちゃけど これから どうなるか さっぱりわからん…… 心細か」
眠気をまとって、音に気を許して、一言ずつ言葉を発する空豆。そこに音のナレーションが続く。
「このこたつの90度が僕たちの距離だ。きっと適切な。僕は空豆に甘えられながらバリアを張られているような気がした。私たちは恋愛にはならないよって」90度の距離を保って眠る二人を映す、真上からのショット。それはまるで時計の針のようにも見える。一瞬交わっても、また離れていってしまう。
ナレーションでわかる空豆の無自覚
空豆は、パタンナーの葉月と夜のショーウインドウを見て回る。「君才能あるよ」「いつかキミのパターンを引きたいよ」と空豆を才能を理解する葉月。こんなにも近くにいるはずなのに音が近づけない空豆との距離を、葉月は今後縮めていくのかもしれない。
5話では珍しく、空豆のナレーションがあった。セイラとの電話を終えたあと、「なんや胸がチクッとなりよった」と心でつぶやく空豆は、あの音が知らないキスをしたあとも、自分の気持ちに無自覚なままらしい。音と空豆はこのまま、離れていくばかりなのだろうか。
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典、淵上正人
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、夏木マリ、松本若菜 他
プロデュース:植田博樹、関川友理、橋本芙美、久松大地
主題歌:ヨルシカ『アルジャーノン』
エンディング曲:King & Prince『Life goes on』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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