アート界における新たなムーブメントは? 識者である文化研究者・美術評論家の山本浩貴さんに、要チェックな傾向やテーマを教えてもらいました。
23年春に知っておきたいアートの多様な“動き”vol.1「若手が絵画に回帰」
若手が絵画に回帰
昨今、アーティスト自身が対話や討論などに参加し何らかの変革を試みる「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」や、政治的メッセージの強い「アート・アクティヴィズム」など、美術と社会が結びついた作品が増加。その潮流について、山本浩貴さんはこう話す。
「迷いや葛藤など“曖昧さ”も包括できるのが美術の面白いところで、多様な解釈が生まれる政治社会との相性はよい。これからもこのムーブメントは継続すると思います。一方で、アートとして扱ってよいか判断が難しい作品が多く生まれていたのも事実。
そんななか、あらためて芸術の歴史や純粋な美しさに向き合い、特に絵画を見つめ直す若手作家が多く登場しています。古典としてやり尽くされた印象がありましたが、近代の作品やアーティストを研究しながら、自分らしい表現を追求していく。彼らがどのように解釈し、可能性を広げていくのか楽しみです」。
注目の若手、長島伊織と福原優太は主に具象画、新井碧と末松由華利は抽象画に取り組む。
長島伊織
ながしま・いおり>> 1997年大阪府生まれ。武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻卒業。対象となるモチーフを考察して物語を紡ぎ、絵画として再構築。主に人物像や静物などがその制作対象となっている。近年ではVALENTINOなどファッションブランドとのコラボレーションも手がける。
福原優太
ふくはら・ゆうた>> 1997年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻卒業。自然風景や植物をモチーフに、幅広いバリエーションの作品を制作。ときにスマートフォンで撮影した画像を基に日常風景を描くことも。2022年に自身初の個展『ガーデン』(下北沢アーツ)を開催。シェル美術賞2021グランプリ受賞。
新井 碧
あらい・みどり>> 1992年茨城県生まれ。2015年に東京造形大学卒業後、22年京都芸術大学修士課程芸術研究科美術工芸領域油画専攻修了。病弱で入退院を繰り返していた子ども時代の経験から、主に身体性や生命の有限性に向き合う。「痕跡を残す」というテーマから規則性のない自由な筆跡が印象的。京都芸術大学 大学院修了展 2022優秀賞。
末松由華利
すえまつ・ゆかり>> 埼玉県生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。社会人生活を経て、画業に専念。国内外で滞在制作を行う。アクリル絵具のにじみやぼかしを精妙に用いた作品を生み出す。2019年気鋭の新人作家を紹介する企画展シリーズ『project N 76 末松由華利』(東京オペラシティアートギャラリー)が行われた。
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山本浩貴
1986年生まれ。文化研究者、美術批評家。ロンドン芸術大学博士号取得、金沢美術工芸大学講師。著作に『現代美術史』(中央公論新社)、『ポスト人新世の芸術』(美術出版社)など。