小さな料理 大きな味 56
いーしやーきいもォ~。
この声が外から聞こえてきたら、そわそわして落ち着かない。いますぐ財布を握って外に飛び出そうか。煩悩のカタマリになって、頭のなかは熱い湯気でいっぱいになる。
石焼きいもの屋台は、寒い季節の風物詩。新聞紙の包みから伝わってくる熱は老若男女を励ます。でも、最近は耳にする機会がめっきり減って、さみしいけれど。
でも、自分でも拍子抜けするくらい簡単につくれるんですよ。石こそ使わないけれど、熱々を手のなかで転がしながら焼きいもに囓りつくのは、冬のお楽しみ。
さつまいもは、秋の収穫時期直後に出回るものより、貯蔵保存中の冬場にぐんと糖度が上がり、水分が抜けてねっとり。最近いろんな種類が手に入るようになったので、買うたびに選び分けるのもうれしい。甘くてねっとり組の、べにはるか、シルクスイート、安納芋。甘くてほくほく組の、なると金時、五郎島金時、ベニアズマ。種子島紫はさっぱりした風味で、さつまいもは気候風土と土の産物なんだな、とあらためて思う。
私のうちでは、この数年、焼きいもは冬場の朝食の主役になっています。まず、朝起きると、さつまいもをさっと洗い、水分をそのままにしてアルミホイルで包み、グリルへ送り込む。三十~四十分かかるので、忙しい朝はパスすることもあるけれど、ただの放り込みっ放しだから、手間はまったくかからない。
さつまいもは、蒸したり炒めたりするより、焼くのが一番おいしい。アルミホイルのまま焼くので、蒸し焼きにも近い。竹串をアルミホイルの上から刺し、スッと通ったらOK。時間と余裕があるときは、そのまま十分ほど寝かせると糖度はさらに上がる。あちちと火傷しそうな勢いでかぶりついたり(私の場合、皮ごといきます)、縦半分に切って、黄色の面にバターかサワークリームをのせることもある。
朝だけじゃないんですよ。同じように焼いてブルーチーズと蜂蜜をのせると、肉料理のサイドディッシュになるし、角切りにして米といっしょに炊けば、黄色が優しいさつまいもごはん。さつまいもは、面倒見のいい近所のおばさんに似ている。
先日、ものすごく久しぶりに大学いもをつくった。乱切りにしたのをこんがり素揚げして、醤油、塩、砂糖をとろりと煮詰めたフライパンのなかで転がすだけ。ぱらっと黒ごまをかけてお化粧したら、アラ不思議、一気に小学生の頃に戻った。そういえば昔、母がこしらえてくれたっけ。
さつまいもはタイムマシーンだなと思った。