何かを極めた人たちにはきっとスペシャルな経験や方法論、 意識の持ち方がある。そんな仕事の“礎”は迷える子羊、 働くギンザガールのポラリスとなり照らしてくれるはず。 いぶし銀に光るサムライ6人に聞いた、彼らが特別である理由。
6人のサムライのお仕事道-02 真鍋大度さんが特別である理由。「夢中になって突っ走る それだけじゃダメなんです」
「夢中になって突っ走る それだけじゃダメなんです」
メディアアーティスト/DJ/プログラマー
真鍋大度 さん
おそらく意に沿わない表現だろうけど、まさに〝時代の寵児〟として真鍋大度さんはメディアアート界の先陣を切ってきた。
意外にも大学卒業後のファーストキャリアは普通のサラリーマン。大手電気メーカーで「防災システムを制御するエンジニアとして1年働いた」という。その後エンターテインメントへの興味から誘われるままWEBのベンチャー企業で半年、そうしてIAMASというメディアアートの学び舎へ。
「プログラムを使って何ができるか試せる場ではあったんですけど、みんなは〝人生のサービスエリア〟って呼んでました(笑)。本当は大学時代こそ自分がこれから何で勝負するかに向き合う一番いいチャンス。だけど、僕は見つけられなかった。1回ドロップアウトして、冷静に見つめ直す準備期間が必要だったんです。突っ走るだけじゃなくてそうやってコンスタントに〝俯瞰してみる〟のは大切なんですよ。そうすれば最終的に良いゴールに向かえるって実体験で感じています」
〝俯瞰する〟こと。凡人には計り知れない濃度とスピード感で右脳と左脳が対話しているに違いない真鍋さんにとって、その過程こそが何かを生み出すシナプスなのだろう。卒業後の2006年、3人でライゾマティクスを起業。操作環境的なスペックの変化は多々あるものの、その頃にはすでに基本的な技術は完成していて、今とほとんど変わっていないという。
「試作を飛び込みでプレゼンとかやってましたけど、まったく興味を持たれなかったですね。研究者が作るデモ映像のようなものだから新しさも、技術的にも理解されなくて当然なんですよ。何が足りないかは自覚していたから、あとは〝いい形〟にするために誰かの力を借りるしかない。それがたとえばPerfumeとのパフォーマンスなどにつながっていくんです」
35歳ぐらいまでは「面白い作品を作るしかない」の一心で日々仕事漬け。リアルにソファで寝て起きての「会社が家」の生活だったそうだ。
「広告で稼いでアートを作る流れはエコシステムとして今も多くのチームがやっている。そうではなくて、自分たちが表現したい得意分野がそのままビジネス=お金になるという仕組みができあがったのはやっと2013年くらい」
メディアアートという言葉が今ほど知られていなかった時代からのパイオニアのみぞ知るケモノ道を、そうやって切り開いてきた。
「みんながいる土俵には登らないほうがいい」。チームには今そう話すそうだ。
「一番いい仕事は、それを最初に作った人しか味わえないんです。ドローンにしろ人工知能にしろ、みんながいっせいに注目して同じ方向に進んでいますよね。そういう状況下で〝俯瞰してみる〟のってすごく難しい。だけど、一緒になるなら降りたほうがいいんです」。目指すべきはずっと先だ。「メディアアートの世界はアイデアひとつでいろんなことが解決できる。アートとして直感的な瞬発力は必要だけど、論理的に考えていけば、新しい表現が自ずと見えてくるはずなんです」
-2002-
東京理科大学理学部を卒業後、会社勤務を経てIAMAS(情報科学芸術大学院大学)に入学
-2006-
ライゾマティクスを設立。昨年が創立10周年のメモリアルイヤー
-2010-
Perfumeの東京ドーム公演で「メディアアーティストと組んだ」と報じられたことが認知が広まるきっかけになる
ディスプレイに映し出された“マインドマップ”。これまでに手がけた全プロジェクトの自作の相関図。次の一手もここから生まれる?
【サムライメモ】
とにかく無類の音好き。アーティストとして音楽制作もするが「好きすぎて満足度が追いつかない」と真鍋さん。プログラミングの何倍も難しいのだそう!