感覚の研ぎ澄まされた二人の佇まいに、思わずこちらの背筋も伸びる。映画『ほかげ』は、塚本晋也監督が前2作『野火』(14)、『斬、』(18)からの流れにおいて、戦争を民衆の目線で描き、戦争に近づく世相を世に問う作品だ。監督の次世代への「祈り」をストレートに表現した本作に、森山未來は芝居のみならずダンスでも磨かれたその身ごと捧げる思いで飛び込んだという。奇跡的なコラボレーションについて話を聞いた。
塚本晋也監督×森山未來が語る、監督の世界に俳優が身を捧げるということ
「役がまるごと自分であるとは思わないですけど、なんかそれくらいの居方だった気がします」|映画『ほかげ』インタビュー
──『ほかげ』は、塚本監督と関わりの深いヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミア上映され、お二人も参加されました。いかがでしたか?
塚本 いつもよりちょっと、静かな映画なので。「ウワー」っと拍手が、っていうよりは、わりと穏やかに気持ちが届いたかなって感じです。
森山 僕は映画祭というものに、そこまでたくさんは参加したことがなくて。何年か前に釜山に一度行って、今年はヴェネツィアとトロント(*2024年公開予定の主演映画『大いなる不在』で参加)に行ったんですけど。
ヴェネツィアは太陽光と、海と、島々と、街並みがシンプルに美しい。その空間において、イタリアの気風もあいまって、映画人たちが「おめでとう!」と愛でられている、贅沢な時間を過ごした気がします。
塚本 ヴェネツィアはそうですね、本当に場所もよくて。
森山 はい。僕は、映画は監督のものだと思っているので、監督たちがこういう形で日の目を浴び、ハレの場を迎えるというのは、非常にいいことだなと改めて感じました。
──塚本監督は現地のインタビューで、森山さんをキャスティングした理由を「肉体性のある役者さんが好きだから」と話されていました。
塚本 そうですね。森山さんはまさに肉体全体で表現されていると感じますし、あとはご本人に備わっている存在感も魅力です。顔のアップも撮るわけですけど、それもその奥で表現している部分を捉えるイメージで、ただ顔の表面だけを撮っているというような意味ではないんです。
森山さんにはもともと、そろそろ自分の作品に出ていただきたかった。実を言うと、この映画のどの役でも演じてほしいと思っていました。脚本の執筆中は、男性の役を書いていると、なんだかみんな森山さんのように思えたくらい(笑)。
──森山さんは塚本監督からオファーを受けての、出演の決め手は?
森山 ある時、僕のホームページのコンタクト欄から、「塚本です」ってメールが届いたんです。
──え、直でオファーが!?
森山 それで、やろうと思いました(笑)。
いざ台本を読むと前半は、(空襲で)半ば焼け焦げた居酒屋、兼、居住空間が現れ、そこで起こっていくさまざまな出来事や人間たちの姿を定点的に見つめ続ける、執着的なまなざしの強さを感じました。そのグワーっとくる感じが、もう脚本の段階から匂い立つというか、インパクトがありましたね。
[衣裳クレジット_森山未來] ジャケット¥263,890、スカート¥94,490、スリップドレス¥105,490(すべてタカヒロミヤシタザソロイスト.|タカヒロミヤシタザソロイスト. tel_03-6805-1989)
Photo_Yuka Uesawa Styling_Mayumi Sugiyama (Moriyama) Hair & Make-up_Motoko Suga (Moriyama) Text & Edit_Milli Kawaguchi