多様性が謳われる昨今だが、本当にあらゆる生き方を肯定できているのだろうか。それを真正面から問うような、朝井リョウの衝撃作『正欲』が、『あゝ、荒野』『前科者』の岸善幸監督によって映画化された。ある理由で、自分自身でいることが難しく、社会の中で息を潜めるように生きている人々。新垣結衣さんは、その一人である桐生夏月を演じている。言葉少なく、笑顔を封印し、息遣いまで聞こえてくるような繊細な演技で、難しい人物を見事に体現していた。本作について、言葉を慎重に選びながら、静かに語ってくれた。
新垣結衣がいま噛み締める「想像し続けることの大切さ」
生きづらさを抱えた人々の群像劇。映画『正欲』インタビュー

──朝井リョウさんの問題作とも言われている小説『正欲』の映画化。出演されたいと思われた一番の理由は何ですか?
お話をいただいたときには、まだ原作を読んでいなかったのですが、企画書とプロットを読ませていただき、惹きつけられるものがありました。映像化するにあたっては、難しい点もたくさんあるだろうと思いましたが、監督やプロデューサー、スタッフの方々とお会いし、同じ方向を向いて進めると確信したので、出演に至りました。
──本作には、新垣さんが演じた桐生夏月のほか、生きづらさを抱えた人物がたくさん出てきます。世間で「常識」や「普通」と言われる、マジョリティーの思い込みが、誰かを追い詰めているかもしれない。自分も傷つけている側の一人かもしれないと気づかされ、大変ショックを受けました。
原作を読んで、私なりに受け取ったメッセージは、「(他者に対して)想像し続けることの大切さ」でした。自分の知らないところで、とても想像しきれない、それぞれの人のそれぞれの世界がきっとたくさん存在しています。その一端をこの物語から知ることができた気がしています。
──完成作をご覧になって、いかがでしたか?
そうですね……(しばらく考えて)、この作品に関わることができて、よかったなと思いました。「こういう映画です」と一言では言い表せないのですが……。美しく、悲しく、苦しさも温かさもある。観ている間に、いろんな気持ちになれました。そういう豊かな作品に出演できたのはありがたかったです。
原作と構成は少し変わっていますが、小説を読んだ後の感覚が、映画からも伝わってきたのがすごく嬉しかったですね。
──夏月は、本当の感情を表に出さず、社会に馴染んでいるかのように見せかけながら生きています。演じるにあたり、どのようなアプローチをされたのでしょう?
この世に自分の居場所がないように感じている人物だったので、役とはいえ、撮影中はずっと体が重だるく、頭の周りにもやがかかっているような気分でした。
こんなふうに演じようとか、こういうトーンで話してみようといった具体的なことは全く決めていなくて、今回は、とにかく「感覚」を大事にしたいなと思っていました。深く考えることも重要でしたが、実際に演じる瞬間は、その時々で夏月はどう感じるか、ということに意識を集中させていました。
──監督ともかなり話し合われたそうですね。
はい。夏月は、とある指向を持っていることにより、全てにおいて生きづらさを感じています。彼女の指向に関して、参考になるようなものがあればといろいろ考えたのですが見つからなくて、想像するしかなかったんです。その部分については監督も一緒になって考えてくださいました。ただ、もしも見つかったところでそれは一部に過ぎない。この映画で表現するものも、これが全てではないと心に留めながら取り組んでいました。
衣装についても監督と相談しました。私は最初、夏月は、女性性を意識させないような服を選んで着ているのではないかと思っていたんです。それをお話ししたところ、監督は「彼女は世の中に擬態したいと思いながら生きている人だから、どちらかというと大多数が思う、一般的な女性に見える服装を身に纏うのではないか」とおっしゃって、あの服装になりました。そういった意見交換をしながら、一つ一つ決めていきました。

ジャケット¥86,900、ニット¥46,200(ともにウジョー|エム tel_03-6721-0406)/シャツ¥29,920、スカート¥42,900(ともにザ リラクス tel_03-6432-9710)/イヤリング¥47,300(ノーム tel_06-6377-6711)/靴¥92,400(パラブーツ|パラブーツ青山店 tel_03-5766-6688)/靴下(スタイリスト私物)
Photo_Yuka Uesawa Styling_Komatsu Yoshiaki(nomadica) Hair & Make-up_ASUKA FUJIO Text_Tomoko Kurose Edit_Milli Kawaguchi