クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。25歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は vol.16 約束なしで
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.17 自分で選んだ寂しさは

vol.17 自分で選んだ寂しさは
苦手だった年の瀬や新年のご挨拶。
父の仕事先の方から親戚、級友まで。
入れ代わり立ち代わり。
インターホンが鳴り止まない。
「お父さまにそっくりな娘さんですね」
私の目元を見つめながら、驚きを隠せないといった表情で始まる談笑。
大袈裟に応えて見せる父と、隣で小さく笑う母。
私は父の背後に隠れたり、母の胸に顔を埋めながら、大人の社交辞令が終わるのをじっと待っていた。
家にいるのに、落ち着かない。
母は挨拶を済ませた後、台所に立ち、細々とした料理をリビングに運んでいる。
楽しいことをするのも、美味しいものを食べるのも大好きだけど。
どうして家族だけじゃダメなんだろう。
そんな風に思っていた子供だった。
好奇心旺盛な癖に、新しいものに馴染むのに時間がかかる上、無理をしすぎるとすぐに熱を出す。
人の手を煩わせる性格はきっと今も健在だ。
そんな私が毎年、心待ちにしている季節。
冬。
年が終わる前に会っておきたい人たちがいて、日々の登場人物が一気に増える十二月。
胸の中で、いつも小人がステップを踏んでいるような感じ。
お酒を飲んだり、プレゼントを交換したり、淡い期待の答えを探したり。
店を出てからの寒さが、人と人の物語を紡いでいく。
だけど。
本当は、イベントの後に押し寄せる、疲労感を楽しみにしてしまっているのかもしれない、と思うことがある。
みんなとはしゃいで、でも、やっぱり一人も良いなって安心感。
眠れない夜。
ベッドから起き出し、毛糸の靴下を履き、キッチンの明かりをつける。
オイルヒーターの発する熱と微かな音。
靴下越しに感じるキッチンの冷たいタイル。
ブルーの小さなホーロー鍋を取り出し、あたためる。
ココナッツオイルをひとさじ入れ、カカオを練っていく。
そこに、少しずつ豆乳を注ぎ、アガベシロップと、隠し味の塩をひとつまみ。
ほろ苦いココアの出来上がり。
マグカップを両手で持ち、それを飲みながら、私は本当に満ち足りた気持ちになる。
大事なのは、それが自分で選んだ寂しさである、ということ。
こんな風にしか、大人であることを確かめられない。
くだらなくて、だけど、大事な私である、しるし。
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家入 レオ
16thシングル『未完成』(フジテレビ系月9ドラマ『絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜』主題歌)のginzamagでのインタビュー:
家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri
Cover Illustration: Yui Horiuchi Edit:Karin Ohira