今回訪ねるのはヴィンテージマンション。苦労も多いけどいいこともたくさん。時代を映した、今ではお目にかかれないデザインに心惹かれます。
最新マンションにはない、60年代建築家の気概が詰まった「ビラ・ビアンカ」:東京ケンチク物語vol.14

VILLA BIANCA

最後に訪ねた「ビラ・ビアンカ」が、建築家・堀田英二の設計で原宿から千駄ヶ谷へと向かう明治通り沿いに完成したのは1964年。築56年も経つのに、ガラス張りのキューブがぽこぽこと飛び出した外観は、周りのどんな最新の建物より未来的に見えるから感動してしまう。ピクセル・デザイナーのten_do_tenさんは、20年前にここの一室を購入し、妻で糸編家のjungjungさん、猫のうずらちゃんと住む。
共用廊下のど真ん中にある、
建物を貫くガラスブロックの筒。
「古い物も建築も好きで、買うならヴィンテージマンションがよかった。30〜40軒見て回ってここに決めました。高校生の頃、ここの地下に有名なクラブがあって、当時から憧れの建物だったんです」
en_do_tenさん一家が住むのは、建設当初のオリジナルのキッチンがそのまま残る数少ない住戸。スチールと木を組み合わせたSFチックなフォルムのこのキッチンがリビングで絶大な存在感を放つ。
竣工当時のままのオリジナルのキッチン。
コンロ、シンク……とすべてのパーツが
デザインされた気合の一作。
「とはいえ何しろ古いので、ふたつのシンクのうちひとつは使えない(笑)。ほかにも不便は数えあげればきりがないけれど、60年代の建築家の気概が隅々にまで行き渡っていて、こんなふうにこだわり抜いたマンションが、今ほかにどこにあるだろうって思うんです。最新の通り一遍なマンションでは決して得られない、建築としての充実感がここにはある。僕らはふたりともクリエイターで、ここにこもって孤独に仕事をすることも多い。そんなとき、信念のある人がつくり上げた建物にいるんだ、ってことが、そこはかとない安堵感を与えてくれる気がします」
一日のうちの決して短くない時間を過ごす場所が、心から愛着が持てる空間であってほしいのは当然のこと。それぞれに個性的な「ヴィンテージマンション」は、だからこそ魅力的な選択肢なのだ。