クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。28歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.77例えの個性 ニューアルバムについてのインタビューはこちら
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.78心から

vol.78心から
間の悪いことにお正月にコロナにかかっていた私は勿論のこと実家に帰省することはできず。完治後、ニューアルバムが完成したと同時に怒涛のプロモーション期に突入し、気づけば3月になっていた。福岡でのキャンペーンでひと区切り。スタッフの皆さんが帰京する中、私は数日休みを貰い久しぶりに故郷で羽を伸ばすことにしていた。盆と暮れに帰省すると親戚やお世話になっている方への挨拶回りに墓参り。友達の顔も見たいし!と、つい予定を入れすぎて、心の休息にのみ専念してしまいがちだけど。今回は体も労わりたい!と母と叔母の3人で温泉旅行に行くことにした。
母の運転する車の助手席に座って、近況を話していたのも束の間、私は程なくして夢の世界へ。ハッと目を覚ましたら母が隣で笑っていた。「運転してくれてるのにごめん」と謝りながらドリンクホルダーの水に手を伸ばすと、少し不機嫌な声で「なんいーよと!疲れとるやろー?寝れてよかったやん」とキュッと口角を上げている母の横顔があった。旅が始まる予感と何とも言えぬ安心感が私を包んで、嬉しくなって窓の外を見た、と同時に声が出る。
「わー!空が広い!」東京でも時間を見つけてよく公園に行く私。太陽や風や土に会いたくなる。「すごーい!」「嬉しいー!」とはしゃいでいた私が急に黙ったので、母が「どうしたの?」と尋ねてきた。
「あのね、福岡空港降りたって、帰ってきたーって思ったの、ただいま〜って。1日目のテレビ収録終わって、昨日2日目。ラジオとかテレビコメント録ってもらったり、取材してもらってる時に、趣味はなんですか?音楽以外だと何してる時が好きですか?って聞かれたの。だから日光浴するのが好きですって、公園に行ったり、散歩に行きますって言いながら、私なんか…途中からすごく、恥ずかしかった」と言葉を切ると、十分に間を取ってから、「なんで?」と母が丸い声で聞いてきた。
昨日確かに恥ずかしい、と思ったのに、その後違う質問をされ、その答えを導き出すのに精一杯で忘れてしまっていた。そうだ。どうして私恥ずかしいって思ったんだろう、と自分に問いかけて、ゆっくり窓の外を見た。そして自分と母に言った。「あのね、福岡に生きてる人、朝起きて、身支度をして家を出て、駅や学校、会社に向かう途中でたくさん太陽の光を浴びて、風を感じて、土を踏んでると思ったから。自然なの、全部が。暮らしの中に光と風と土があるの」「東京でも同じこと、みんなしてるんだよ。私もしてる。でも街がギュッと窮屈で、電車で移動してる時なんて他のことで頭と心を満たしてないと辛いの。誰も悪くない。ただ喫茶店に入ったら、隣の席の人と拳一つ分くらいしかスペースがなくて、休憩しに入ったのに全然休まらないの。だから休もうと思って公園に行くし、日の光を浴びたいって散歩に行くの」私も話しながら何が言いたいのか、よく分からなかったけど、心が求めていることはハッキリ分かった。柔らかい声で「ね〜〜〜あのさ〜〜温泉入ってさ、ふにゃふにゃになろうね〜〜〜美味しいものたらふく食べようね〜〜〜」と私が母にもたれ掛かると信号待ちの母が笑いながら肩を抱いてくれた。私は今めいっぱい音楽をしてる。ずっと先のことを考える余裕なんてないくらい、めいっぱい。それでいいと思う。人に頑張ってるねって言われることより、自分で自分に頑張ってるねって言ってあげられることを大事にして生きたい。ちゃんと心からの私で、心からあなたに歌を歌いたい。
🗣️
家入 レオ
2022年2月にはデビュー10周年を記念して「10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター」を開催。
2023年2月15日にはニューアルバム『Naked』をリリース。収録されている「嘘つき」はWOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」のオープニングテーマ。 ginzamagでのインタビュー: 家入レオが“Naked”な自分に原点回帰して気づいたセルフラブの大切さ「毒も見方次第で“あなたらしさ”になるから」 家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
leo-ieiri.com
@leoieiri