「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.113 宇宙の塵。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.114
誕生日の決意
vol.114 誕生日の決意
2025年、新しい年が始まった。西暦が変わり、干支も変わり、私も先月また1つ歳を重ねた。その少し前には本格的に風の時代に入った、なんて事を耳にすることも多かった。30歳、新しい年、30代の始まり。変わったり、新しかったり、忙しい。
誕生日の日のことは、思い出そうとすると頭が少しボーっとなる。そう、あれは全て夢だったんじゃないかって。このエッセイを書いている私は明後日から5泊6日中国3公演のライブを控えていて、ここを越えるまでは完全に気が抜けない、というのも大きく関係していそうだけど。まだあの夜が近くにありすぎて、とても客観的に言葉にできそうもない。それでもこの熱が冷めぬうちに書き留めておきたいぬくもりが確かにここに在るから、今キーボードを打っている。
10月からスタートした 全11都市12公演「TOUR 2024 〜My name〜」のセミファイナルとファイナルは、12月12日、13日、東京LINE CUBE SHIBUYAで迎えた。20代の終わりをライブで締めくくり、30代の幕開けをライブで始められるなんて、幸せなことだ。思い出そうとすると、どうして頭がボーっとするか今分かった。大切な瞬間がありすぎて、心が容量オーバーになってしまっているのだ。大切なところにだけ黄色い蛍光ペンを引こうと開いたページを前に困ってしまう。そのページの全てが、全行に、線を引きたくなる。そしていつもは、帰りの飛行機や新幹線でライブ音源や映像をチェックして、ここはもっとこうできるのでは?と、ブラッシュアップしていくのだけど。あの2日間は、映像や音源を通してあの場所にみんなといたことを思い出す、ということを、どうしても、したくない。振り返りたくない。私にとってあの日、あの夜はまだ「今」であって欲しい。過去にしたくないのだ。私のこの身体と心に残っている熱を頼りに文章にしたい。それが純度の高い大切な瞬間、だと思うから。
12日のアンコールは他の公演とセットリストを変えて「君がくれた夏」をお届けした。実はこの曲を初披露したのが、会場名が「LINE CUBE SHIBUYA」に変わる前の「渋谷公会堂」だった。当時20歳だった私。20代「君がくれた夏」がたくさんの出会いと景色を運んできてくれた。そして人生を歩む中で色んなことがあったけど、途中で諦めなかったから、29歳、30歳を前にして同じ場所に戻って来れて、みんなと時の移ろいに心を馳せることができたんだ。物語は、自分で作っていくものなんだと学んだ。そして誕生日当日のライブはメンバーと会場のみんながサプライズでバースデーソングを歌ってくれた。生まれてはじめて!あんなにたくさんの人にハッピーバースデーを歌ってもらって嬉しかったぁ。そしてその歌声を聴きながら、「あぁ今日ここにきてくださっている人達のカレンダーのしるしになりたい」って思った。手帳のカレンダーに、友達と遊びに行く日やお母さんと買い物に行く日、ペタってキラキラのシールを貼っていたあれ。そうすると学校で落ち込むことがあっても、未来に楽しみがあるからもう少しだけ頑張ろうって思えた。2023年から大きく舵を切り始め、2024年は正直もうダメかもしれないって思ったことが何度かあった。ライブやイベント、ツアーやプロモーションの合間にレコーディングも制作もして。どこかで体調崩したら、その後控えているスケジュール全部駄目になっちゃう、みたいな。やっぱり声帯には限りがあるし、できることは全部していたけど、高熱が出てレコーディングをなんとかずらしてもらったり、リハを当日にしてもらったり、悔しかったこともキツかったことも少なくなかった。だけどね、このツアー回っていて、誰かに喜んでもらう、そして誰かの希望になるって、そんなに優しいことじゃないよねって、強く思ったよ。そして、それでもやっぱりあなたや君に会いたいと思った。あなたや君が私に会いにきてくれるなら、やれること全部やって、音楽でハグしたいって。30歳になった日のライブのことを2025年も忘れずに前進していきます。いつだって、そばにいるからね!
Text_Leo Ieiri Illustration_chii yasui