青春物語からギャグアニメまで、斬新なアプローチと表現方法でたくさんの人の心を震わせた、特筆すべき重要作品を10本厳選!
2000年以降、アニメの“新しい扉”を開いたマスターピース
ありえない世界をフラットな視点で
『涼宮ハルヒの憂鬱』(06)
©2006 谷川流・いとうのいぢ/SOS団
「ただの人間には興味ありません」と高校入学時の自己紹介で高らかに宣言し、好奇心の赴くまま「SOS団」を結成したヒロイン、涼宮ハルヒ。そんな風変わりな彼女を取り巻く学園生活をクラスメイトのキョンの視点から描いた本作では、ハルヒが無自覚のまま超常現象を巻き起こしたり、宇宙人、未来人、超能力者たちがそれぞれの思惑のもと彼女の側に現れたりと、“非日常の日常”が淡々と繰り広げられる。個性豊かな登場人物たちや、京都アニメーションによるハイクオリティな作画、ダンスが一大ブームとなったED曲「ハレ晴レユカイ」なども大きな魅力。
3DCGで躍動するケモノたち
『BEASTARS』(19)
©板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会 『BEASTARS』第1期・第2期 Netflixにて見放題独占&FODで配信中
原作は受賞歴多数の板垣巴留原作による同名コミック。舞台は二足歩行の肉食獣と草食獣が共生する学園で、擬人化された動物たちが内なる欲望と戦いながら恋愛や友人関係に苦悩するという、アニマル版“ヒューマンドラマ”。アニメ制作は圧倒的な映像美が話題となった『宝石の国』(17)を手がけた、気鋭のアニメスタジオ「オレンジ」が担当。3DCGでありながら、動物の持つしなやかさ、体毛などの柔らかさを巧みに表現した。顔の動きを記録するフェイシャルキャプチャを用いて作られた、キャラクターたちの豊かな表情にも注目。
ドキュメンタリーアニメの先駆け
『戦場でワルツを』(08)
2009年、日本で劇場公開された当時のチラシ。
『FLEE フリー』(21)など「アニメーション・ドキュメンタリー」というジャンルが広がるきっかけを生んだイスラエルのタイトル。青年時代に兵士としてレバノン内戦を経験した監督のアリ・フォルマンが、失われた従軍時の記憶を探るために戦友たちを訪ねるストーリー。壮絶な戦闘シーンや当時見た悪夢などがアニメとして描かれる。戦場を体験してきた兵士の記憶という実写では撮影が不可能な題材も、アニメという手法であれば伝えられるとひとつの可能性を提示した。第81回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなど諸外国での評価も高い。
そこで確かに生きていた人たちを思う
『この世界の(さらに いくつもの)片隅に』(19)
©2019こうの史代・コアミックス/「この世界の片隅に」製作委員会
広島県・呉、戦時下を生きる主人公すずの日常を紡ぐ物語。前作『この世界の片隅に』(16)から250以上のカットが追加された新訂版で、彼女だけでなく、周囲の人物の人生がさらに深く掘り下げられている。ストーリーはフィクションだが、ベースになっているのは、監督・脚本を担当した片渕須直氏および制作チームによる、緻密な現地取材や徹底的な時代考証。天気や出来事、街の上空に現れた飛行機の型番などが特定され、作品の中で綿密に再現されている。だからこそ、当時、実際に呉で生活していた人々の機微がありありと伝わってくる。
思春期特有の痛みや揺らぎ
『あの日見た花の名前を 僕達はまだ知らない。』(11)
©ANOHANA PROJECT 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」10years after BOX好評発売中
“あの花”の愛称で親しまれた大ヒット作。「めんま」の事故死によって決裂した幼なじみ6人組の前に彼女の幽霊が出現。旧友たちの関係を結び直そうと試みる。感情をぶつけ合いながら過去のトラウマに向き合い、次第に絆を取り戻していく主人公たちの姿に、「涙が止まらない」と共感する視聴者が続出。今作の監督・長井龍雪×脚本・岡田麿里×キャラクターデザイン・田中将賀のトリオは、続く『心が叫びたがってるんだ。』(15)、『空の青さを知る人よ』(19)でも埼玉県の秩父を舞台に設定。現地への聖地巡礼も社会現象となった。
大人の胸を打つ、真っ直ぐさ
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(01)
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 1993-2011 DVD発売中、Blu-ray 2023年4月26日発売 発売元: シンエイ動画 販売元: バンダイナムコフィルムワークス
劇場映画シリーズ9作目。「昔はよかった」と昭和のノスタルジーを求める大人を洗脳し、「進歩せずに子どもの頃のまま暮らそう」と誘惑する悪の組織「イエスタデイ・ワンス・モア」。ノスタルジーにとらわれ次第に我を失っていく人々を目覚めさせようと、しんちゃんやひろしが奮闘する。お決まりのギャグシーンもありつつ、物語の根底にあるのは「未来にも夢がある」という実直なメッセージ。ひろしが幼少期から学生生活、就職、結婚、家族の誕生まで自身の半生を振り返るシーンも、年齢を重ねたファンからの共感を呼んでいる。
全方位オシャレ度高めな話題作
『オッドタクシー』(21)
©P.I.C.S. /小戸川交通パートナーズ アニメ「オッドタクシー」各配信プラットフォームにて全話配信中
無口なタクシー運転手・小戸川を中心に展開される群像劇ミステリー。可愛らしい動物の絵に反して、何気ない会話のやりとりや叙述トリックが光る脚本力が圧倒的。オープニングテーマでスカートとコラボしたPUNPEEが、劇伴を自身のレーベルメイトであるVaVa、OMSBとともに担当するなど、個性的な音楽で物語を彩った。またお笑い芸人のダイアンやラッパーMETEORが声優として参加するなど、ユニークなキャスティングも秀逸。
不器用な若者の気持ちを掬いとる
『宇宙よりも遠い場所』(18)
©YORIMOI PARTNERS
人気アニメ『ノーゲーム・ノーライフ』(14)シリーズなどで知られるいしづかあつこ監督による青春グラフィティ。4人の女子高生たちが共に南極を目指すという壮大な設定を背景に、“ポンコツ”や不登校といった自身にコンプレックスを抱くキャラクターの心情が丁寧に描写されている。くすりと笑えるギャグ要素もちりばめつつ、葛藤しながらも前進しようとする若人とその友情を繊細に表現した温かな作品。
なんてことない毎日の尊さ
『けいおん!』(09)
『平家物語』(22)や『聲の形』(16)などを手がけた、新世代の注目株・山田尚子監督のデビュー作。女子高生5人がバンドをしたりお茶を飲んでおしゃべりしたり、超ゆるふわで至極普通な日々が描かれる。制作には女性スタッフが多く携わり、男女を問わず愛されるキャラクターデザインなども人気に。大人たちの日常にはなかなか存在しない(かもしれない)、幸福な青春の一幕が胸を打つ。
破壊の極地!
『ポプテピピック』(18)
原作は「とびっきりのクソ4コマ!」のキャッチコピーで知られる、大川ぶくぶによる同名コミック。アニメでは原作のシュールな作風やパロディ要素をさらにパワーアップ。主人公のポプ子とピピ美のキャストを毎回変えるという趣向や、本編中にクリエイティブチーム「AC部」によるヘタウマな絵柄で描かれたパート「ボブネミミッミ」が挿入されるなど、“当たり前”を無視し続ける傍若無人なテンションが支持を集めた。常識皆無なのが逆に爽快。