広瀬すず×永瀬廉による青春ラブストーリー、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS火曜よる10時〜)。いつもそばにいた浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)。住む場所が離れるのにともなって、二人の距離も離れてしまい……。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが7話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。7話のレビューはこちら。
広瀬すず×永瀬廉『夕暮れに、手をつなぐ』8話。あの瞬間をなぞるふたり!「なんて名前と〜?」「音!」と答えるまでの、永瀬廉の表情

二人の才能が二人を引き離す
『夕暮れに、手をつなぐ』の主題歌、ヨルシカの「アルジャーノン」のフレーズがことさら響く8話だった。変わらないはずだった二人の関係は、変わってしまいつつある。
ひとつ屋根の下で暮らし、どんなときもそばにいて、気持ちをわかちあっていたはずの浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)。音の引っ越しが迫っても、空豆がアンダーソニアのコレクションに参加したり、音もおそらく曲がバズって忙しかったりで、なかなか二人の時間をもつことができない。音がテレビに初めて出ることもしばらく経って空豆に報告することになる。
「いや、メッセージでもよかやろ」
「いやそれはさ、ほら顔見て言いたいじゃん」
音はいつも、相手の目を見て直接伝えたいと思っているらしい。だから、結局決定的なひとことを空豆に言えないままこの家を去ってしまった。もしかしたらこの先空豆を救うことになるかもしれない空豆の母・塔子(松雪泰子)からのメールだけれど、二人の恋にとってはあまりにもタイミングが悪かった。
響子(夏木マリ)の家で二人過ごす最後の夜、音が空豆に言おうとしていたことを伝えられなかったのは、皮肉にも二人の才能と成長が影響している気がする。
空豆に「Don’t remember days, remember moments」というコレクションテーマのインスピレーションをもたらしたのは、音と二人で積み重ねてきた瞬間だ。けれど、もしもこの夕暮れに空豆にそんなひらめきが訪れなかったら、二人はもっと落ち着いて向き合えたのかもしれない。さらにいえば、音の曲がこんなにもブレイクしなかったら、そのMVで空豆が魅力的な衣装をつくらなかったら、塔子からの連絡はこなかった。
まさに空豆がかつて言っていた「遠くの人を楽しませる人は、近くの人を悲しませるっとよ」を体現するかたちになってしまった。引っ越しを明後日に控えてこたつで寝落ちしたらしきふたりは、相変わらず90度の位置で眠っていた。結局最後まで、そのままの距離で音は去っていった。
奪われる悲しみと会えない音
8話では、老いゆく有名デザイナーの悲哀も描かれていた。空豆がたいせつな瞬間を紡いでデザインにしたコレクションを、丸ごとパクった久遠(遠藤憲一)。たとえばもし、彼がこれまでもそんなふうに若手の才能や発想を奪っていまの地位を築いていたのだとしたら、もう少し狡猾にやることができただろう。テーマもデザインもあまりにもそのまま自分のものにする雑さ。責められてため息をつきつつも土下座するというみっともなくも素直すぎるやり方。もしかしたら、彼はこんなことを初めてしたのかもしれない。
もちろん、初めてだろうが常習犯だろうが、罪は罪だ。罪である以上に、空豆を傷つけた。空豆からしてみれば、自分の思いを注ぎ込んだアイデアを奪われた。尊敬していたデザイナーが安く、ダサく、みっともない存在に成り下がった。
この悲しみを救ってくれるのは音しかいない。かつて空豆が婚約者に振られたとき、そばにいたのは音だった。けれど、いまボロボロになった空豆が目にしたのは胸に飛び込むセイラ(田辺桃子)を抱きしめる音の姿だった。セイラはセイラで、音を求める空豆の電話を受け、空豆の目に自分が映っていないことに気づかされショックを受けているようだった。何もかもうまくいかない。
たいせつな出会いの瞬間をなぞる二人の演技
8話の白眉は、なんといっても音が家を去る瞬間の、空豆と音の会話だろう。東京にやってきて初めて音に会った空豆が、ホテルのバルコニーから初めて音の名前を聞いたあの瞬間。きっとそのときに二人の恋が始まった、あの会話を再現してみせた空豆。お互いにあのときのことを思い出して、わかっていてそれをなぞるから、「なんて名前と〜?」「ええ名前やが〜」と軽い感じで言ってみせる広瀬すずの演技。おそらくは自分の中にある空豆への思いで胸が詰まって一瞬間を置いて「音!」というまでの、永瀬廉の表情。
脚本の北川悦吏子は、「私はこの回が書けただけでも、このドラマをやったかいがあると、今、8話を見返していて思いました」とTwitterでつぶやいていた。脚本家が生み出した言葉を役者が体現する、ドラマの醍醐味がこの会話につまっていたように思う。
ほんとうに二人はこのまま離れていってしまうのだろうか。また手をつなぐ日が来てほしいのだけれど。
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典、淵上正人
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、夏木マリ、松本若菜 他
プロデュース:植田博樹、関川友理、橋本芙美、久松大地
主題歌:ヨルシカ『アルジャーノン』
エンディング曲:King & Prince『Life goes on』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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