2025年5月10日(土)まで、TERRADA ART COMPLEX Ⅱ内にあるギャラリー「T&Y Projects」で、写真家・水谷太郎による展覧会『ニュー・ホロウ/New Hollow』が開催中。日本、アメリカ、アイスランドなどで撮影した新旧のモノクロ作品62点が展示される。
写真家・水谷太郎が個展『ニュー・ホロウ』を開催
“雪の重さで崩れた木造建築”を通して見えてくる新たな視点とは

銀世界のなかで崩れかけた建物を捉えた作品の数々。これらは、写真家・水谷太郎さんが日本、アメリカ、アイスランドなど、いろんな地で撮影した風景だ。雪の重みで崩れた木造建築をはじめ、意味を失った看板、車窓から流れゆく景色、自然が生み出す抽象的な模様など、人工と自然のあわいに浮かぶ被写体たちは、空白、静寂、記憶について静かに語りかけてくる。本展で発表される作品群はどのように生まれたのか。水谷さんにお話を伺った。
「今回の写真展は、“雪の重さで崩れた木造の建物”を被写体にするところからスタートしました。本来の機能を失ったデザインは、新しい彫刻のように見える。それが“雪の重さ”という自然の力が作り上げたもので、とても美しく感じたんです。そんなふうにして本展のコンセプトは決まりました。木造の廃屋のリサーチをはじめたのは5年前。北海道に行くたびに候補となる場所を地図上に記録していて、実際に撮影しに行ったのは2024年の冬です」

個展では、新しく撮り下ろされたものから、過去作を見返して加わった写真まで、新旧のモノクロ作品62点が並ぶ。そもそもなぜモノクロ表現を選んだのか。
「写真が生まれてからの時間のなかで“写真を見る”という行為は変化し続けています。印画紙に焼き付けたプリント、本や雑誌などの印刷物、そして現在のスマホやSNSと自分が写真に触れて生きているなかでもメディアが変わり続けている。現在のSNS上にあがっている“写真”は彩度やコントラストが高いものが目立ちます。そして、“写真”が進化し自由になっていく一方で、不自由になっているような面も同時に感じる。色彩をなくして、白黒のプリントをみてもらうことで観る側に“想像する領域”を残したいと思い、モノクロという見せ方を選びました」
普段はブランドキャンペーンやファッション雑誌でも活躍する水谷さん。風景もモデルと対峙することとそう変わりはないという。
「“いまその時点で自分がどんな考えや気持ちでカメラを持ちそこにいるか?”、それはすべての対象物に対して一定の感覚なんです。モデルやミュージシャン、物、風景を撮る感覚はすべて同じですね」
地面を覆う雪や太陽の光、その白さの奥には、不思議な気配が満ちてくる。曖昧さの美しさ、儚さこそ、広がる想像の世界=「New Hollow(新たな空洞)」。水谷さんのモノクローム作品を通して、私たちの目になにが映るのか。ぜひ会場で体感したい。
🗣️
水谷太郎
みずたに・たろう>>1975年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。ファッションフォトグラファーとして数々の雑誌・ブランドキャンペーン・映像制作を手がける一方、アーティストとして作品制作を精力的に行う。写真集に『Here Comes The Blues』『Chaos / Balance』『Lethe』など。主な展覧会に『New Journal』(2014, Gallery 916)、『LOOKIN THROUGH THE WINDOW』(2019, GYRE GALLERY)、『淼』(2023, 隙間ギャラリー)などがある。
ℹ️
『New Hollow』
会期_2025年4月5日(土)〜5月10日(土)
開館時間_12:00〜17:00
会場_T&Y Projects
住所_東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEX Ⅱ 4F
休廊日_日・月・祝日
Text_Nico Araki