現代のものにはない色や柄、フォルムに無性に惹かれるのはなぜだろう。時間という魔法にかけられて、それらはとってもチャーミングな輝きを放つ。ヴィンテージを愛する人に“いちばんのお気に入り”を見せてもらいました。
クローゼットの宝もの 榎本実穂さんの50sのスーベニアシャツ

デニムトラウザーに特化した〈リヴィントーン〉の展示会では、コレクションと一緒にヴィンテージのトップをつるしたコーディネート提案がいつも好評。それらはすべてディレクターを務める榎本実穂さんの私物だ。ハイエンドのブランドを扱うセレクトショップのバイイングを担当していた頃、年に何回も海外へ買い付けに行くたび、勉強のためにヴィンテージショップも巡っていたという。そんな榎本さんが「激レアです」と教えてくれたこちら。
「いわゆるスカジャンと根源は一緒ですが、綿入りでもジップアップでもない、開襟シャツ型。形に惚れました」
第二次世界大戦後、日本に駐留していた米軍の兵士が、帰国時にお土産として虎や龍や富士山などの刺繡をオーダーメイドしたリバーシブルのスーベニアジャンパーは、横須賀が発祥とのことから「スカジャン」と呼ばれている。現行品も出回る今や定番でもあるけれど、アメリカで流通していたのを日本のバイヤーが買い付けた逆輸入ものだ。
「正面はボタンが隠れる比翼仕立てで、前身頃の左右にもドラゴンの刺繡があり、細部の縫製までとても丁寧な美品。リバーシブルではないけれど、それっぽいバイカラーなのもいいですね。サイズが女性向けで、刺繡糸にピンクやラベンダーやベビーイエローといったフェミニンな色を選んでいるのは、恋人のために発注したものだからではないかと推測しています」
貴重なアイテムを入手できる秘訣は、信頼関係にあり。
「足しげく通っていた表参道の古着店のバイヤーさんと仲良くなって、私の好みを把握してくれていたからか、店頭に出さないで直接見せてくれたんです。その人と本国のディーラーとの信頼も、相当確かなんだろうなと思いました」
価値のわかる人の手を渡り、時代を超えてつながってきたストーリーに魅力が増す。
「私がヴィンテージを選ぶルールはあくまで“着る”ため。似合わないサイズだったり、ボロボロで額に入れて鑑賞するしかないようなら買いません。このシャツは、ジーンズを合わせるとアメリカンになりすぎるので、きれいめのスラックスを選んだり、キャミソールドレスに羽織ったり」
さりげなく取り入れて唯一無二のおしゃれが完成する。
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榎本実穂
えのもと・みほ>> 〈リヴィントーン〉〈ミオズモーキー〉ディレクター。パンツスタイルに似合うエッジの効いたシューズブランド〈OE〉を2022年秋ローンチしたばかり。