絶対に手放せないジャケットや、ずっとそばに置いておきたいバッグ。日々の表現を支える宝物は、いつだってクローゼットの中にある。ファッション好きなあの人が語る、残しておきたいものの話。#残しておきたい宝物
スタイリスト Takanohvskayaの残しておきたい宝物:ヘルムート ラングのデニム
あの頃の学びを宿すデニム

あの頃の学びを宿すデニム
「まだ何もわからなかったハタチ前後の自分に、課題を与えてくれたデニムです」
スタイリストのTakanohvskayaさんが語るのは、〈ヘルムート ラング〉の2003SSコレクションで発表されたシザーズデニム。ラング自身がデザインした、いわゆる本人期のアイテムだ。手に入れたのは、文化服装学院に通っていた8年前。
「ラングはミリタリーをベースにしつつも超ミニマムで、ちょっとフェティッシュなところが魅力的。僕は特にデニムが好きで、10本ほど持っています。中でもこれに思い入れがあるのは、ネットや通販ではなく、憧れの店に通いつめて信頼する人から買ったから」
それは、デザイナーズのアーカイヴを扱う古着店「ZSC(ゼンソース クロージング)」。
「こういうジャンルの先駆け的な存在だったことに加え、時代のムードを先読みして独自の提案をする感じがすごく新鮮だったんです。お店の方とはそれほど歳が離れていないこともあり、憧れと同時に、早く同じ目線で話せるようになりたいという気持ちもありました。印象的だったのは、〝このカッティングがいいよね〟みたいな軽い会話の中にも、ブランドにまつわる課題やヒントが隠されていたこと。僕はそれを持ち帰っては、学校の図書館で資料を探したり服飾の歴史を調べたり……ということを繰り返していました」
あの頃一生懸命に勉強し、足しげく店に通って会話したことは、ファッションスタイリストという今の仕事にもつながっている。
「そんな『ZSC』で買ったシザーズデニムですが、今はほとんどはいてないし、これからもはかない気がしています。それでも捨てることはないと思う。勉強することがとにかく楽しくて新鮮で、毎日服のことばかり考えていた19歳、20歳の頃。その大切な時間と経験とが、ここに宿っているんです」
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Takanohvskaya
タカノフスカヤ>> 1997年生まれ。広告や国内外の雑誌メディアを中心に活動。ブランドやクリエイターのバックボーンを尊重するスタイリングに定評がある。昨冬より「YARD」に所属。
Photo_Toshio Kato Text_Masae Wako