『ノーヴィス』(11月1日公開)は、大学のボート部に入部したアレックス・ダルが、並外れた執念をもって自らを極限まで追い込む姿を描いた物語です。自身の体験をもとに脚本を執筆したローレン・ハダウェイ監督は、これまで音響技師として映画『セッション』などの大作を手がけてきたというユニークな経歴の持ち主。音や映像の緻密な表現により、観客が主人公の内面に入り込むような没入感を生み出す本作における、制作背景と挑戦について聞きました。
映画『ノーヴィス』ローレン・ハダウェイ監督にインタビュー
「努力は才能に勝るのか?」ボート競技に取り憑かれた女性の魂の葛藤
——今作の主人公は、大学のボート部に入学したアレックス・ダル(イザベル・ファーマン)です。名前が特徴的ですが、どのように決めましたか?
キャラクターの名前を考えるのを楽しめる人は多いけど、私自身は嫌いなんです。で、自分の本棚に並んでいる本の背表紙を眺めていたら、『モンテ・クリスト伯』を書いた19世紀フランスの文豪アレクサンドル・デュマと、『チョコレート工場の秘密』で知られる小説家ロアルド・ダールの名前が目について。ふたつを半ばかけ合わせ、“アレックス・ダル”と名づけました。アレックスだけでなく、彼女がライバル視するジェイミー(エイミー・フォーサイス)も、惹かれ合うダニ(ディロン)も、ジェンダーニュートラルな名前のついた女性なので、そのことに着目したレビューも見かけましたね。
——ホラー映画『エスター』シリーズで知られるイザベル・ファーマンを主演に起用したのはなぜですか?
オーディションが素晴らしかったから。才能に惚れたのはもちろんだけど、どこか緊張したような、強烈なエネルギーを感じたんです。それこそアレックス役に必要なものでした。ちょっとしたメモ書きや付箋でいっぱいのバインダーを抱えていたのも印象に残っています。そういえば2014年に映画『ゴーン・ガール』が公開された時、デヴィッド・フィンチャー監督のQ&Aイベントに参加して。彼はキャスティングについて、人間としての本当の姿を見極めるのが大事だと話していました。というのも俳優は、撮影現場で10時間労働したのち、1日の終わりにはすっかりクタクタで、本人以外の何者でもなくなるから。ベン・アフレックはベン・アフレックでしかなくなるわけです。だからこそ、キャラクターにふさわしい何かが備わっているかどうかを確認するのだと。
Text & Edit_Milli Kawaguchi