梨央(吉高由里子)のもとに戻ってくる優(高橋文哉)。ほっと一息つける幸せな回かと思いきや、しおり(田中みな実)の執拗な取材が迫る。ドラマを愛するライター・釣木文恵とイラストレーター・オカヤイヅミが、あらゆる感情を揺さぶられまくった感もある『最愛』7話を振り返ります。
吉高由里子×松下洸平『最愛』7話。しおり(田中みな実)はどうしたら幸せになれたのだろう
加瀬に憧れ弁護士をめざす優
脚本を担当した清水友佳子が自身のTwitterで「感情全部乗せ回」とツイートしたとおり、7話はあたたかいシーンと突然の悲劇に気持ちが乱高下する1時間だった。
加瀬(井浦新)の尽力もあって優(高橋文哉)は無事梨央(吉高由里子)のもとに戻ってきた。姉弟は空白の時間を埋めるように、社長にしては質素な梨央の部屋でともに暮らしはじめる。
優は自分の犯した罪を胸に刻みながらも、周りの愛と励ましもあって前を向く。加瀬に憧れて自分も弁護士をめざす、そのために梨央が開発している新薬の治験も受けるという。そもそも梨央の元を離れたあと、自分一人で生きていけるようにと猛勉強の結果、上場企業のネットワークをハッキングできるほどの腕前にまでなったことを思うと、優ならば司法試験も突破できそうだ。
優が治験を受けられそうだとわかり、研究室の仲間たちに報告する梨央。息を切らしながら、途中で「ありがとうございます」をはさみながらのこの演技が見事だった。
大輝(松下洸平)の岐阜での振る舞いを山尾(津田健次郎)に報告した桑田(佐久間由衣)。その結果、大輝は捜査一課から生活安全課に異動を命じられてしまう。優はそんな大輝を姉と会わせようと画策する。「もう会わない」と決めたこともあって、梨央を見た瞬間帰ろうとする大輝の背中に「逃げたって何も変わんないぞ! そう言ってくれたのは大ちゃんやろ」と声をかける優。そして3人は15年ぶりに楽しい時間を過ごす。
ふと二人になった(これも優の気遣いなのだけど)梨央と大輝が飲み物をこぼしてバタバタするうち手が触れて近づき、見つめ合って笑ってしまうという突然の超ラブコメ展開も、ここまで二人を見守ってきた上で見ると微笑ましい。その後笑いながらティッシュを投げ合う二人はこの一瞬、ようやく15年前の関係に戻ったかのようだ。
しおりの執着の理由
しおりという人は、どうしたら救われたのだろう。彼女の真田ウェルネスに対する過剰なまでの執着の理由は、梨央と対峙したときの言葉に集約される。
「あなたは世界を変える30代。こっちは息をするのもやっとで生きてきたのに。こんな不平等なことってあります?」
15年前に殺害された康介(朝井大智)の被害者という点で、しおりと梨央は同じだった。けれどその後の人生はここまで大きく変わってしまった。しおりはそのことが世間に知られ、梨央は知られなかったというのも、とても大きなことだろう。けれどしおりと同じように被害者として報道されながらも今は真っ当に暮らしている菜奈(水崎綾女)のような人生もたしかにある。しおりは過去を背負い続け、梨央と自分との違いに苦しみ、ずっと幸せそうには見えなかった。
しおりに「あの父親は最後まで謝ろうとしなかった」と聞かされた梨央の「あなたがあの人を」という言葉に涙目でうっすらと笑顔さえ浮かべていたしおりは、一体何を考えていたのだろう。
彼女がこの世から消えてしまった今となっては、もうわからない。
後藤と加瀬、二人の“清濁”
後藤(及川光博)がいよいよ追い詰められてきた。康介の父親・昭(酒向芳)に500万を渡したのがどうやら彼らしいこともわかり、そのことが加瀬にバレてもいる。さらにしおりの追求によれば寄付金詐欺にも手を出しているかもしれない。
加瀬も後藤も、会社を守るために行動しているという点では同じだし、加瀬だってかなり強引で危なげな動きをしている。二人とも、”清濁併せ呑む”を体現しているような存在だけれど、加瀬がグレーなのに対して後藤はかなり黒そうだ。そして今まさに窮地に追い込まれ、闇に引きずられようとしているように見える。終盤で運んでいた大きなキャリーケースには一体何が入っていたのだろう。お金か、あるいは別のなにかか。
7話のオープニングはしおりによる「もしも」のモノローグだったが、桑田も大輝について「もしも自分が上司に報告しなければ」と悔いていた。飲み屋でそんな桑田に「気にするな」と言いながら大輝が飲んでいたのは上司・山尾のボトル。これはちょっとクスッとできる遊びだった。
しおりはなぜ死んでしまったのだろう。いまはしおりのICレコーダーに録音された音声が梨央に不利に働かないか、そして姉弟に再び不幸が降りかからないかが心配だ。
脚本: 奥寺佐渡子、清水友佳子
演出: 塚原あゆ子、山本剛義、村尾嘉昭
出演: 吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉 他
主題歌: 宇多田ヒカル「君に夢中」
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。
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Edit: Yukiko Arai