小さな料理 大きな味 28
干物めし
暑い季節に何度も作りたくなる料理がある。
きゅうりもみ、トマトと玉ねぎのサラダ、ガスパチョ、にら玉、みょうがの酢漬け、セロリとベーコン炒め、刻んだ香味野菜や海苔を山盛りにした豆腐……しゃきしゃき、ざくざく、勢いのいい音を立てて食べていると食欲を煽られ、元気を鼓舞される、そんな料理。
箸が進むというやつです。
台所に立つのも面倒な暑い時期。ちゃちゃっと簡単に用意したあと、箸の進みに助けられると、目の前のひと皿に旗振りをしてもらっている気分になる。
味の混ざったご飯にも食欲を煽られるので、よく作る。
たとえば干物めし。
こういってしまうとミもフタもないけれど、一膳の茶碗のなかでご飯と干物の朝定食がいっぺんに成立する合理的なめしでもあります。ご飯に焼いた干物を混ぜ込むと、めしと魚の一体感はびっくりするほどで、干物は役者だなあといつも思う。
アジの干物なら、米一合につき1枚あたり。たっぷり身が入っていたほうが当然おいしいし、満足感が高い。
【作り方】
①干物を焼き、よく冷ます。
②指でざっくりと干物の身をほぐし、小骨と皮をはずしておく。
③青じそ、みょうが、生姜など好みの香味野菜をせん切りにする。
④炊いたご飯に②と③、白ごまを入れ、さっくり混ぜ合わせる。
干物ならなんでも構わないのだが、私はアジかカマスをよく使う。ポイントは、焼いた干物をいったん冷ますところ。わざわざ冷ますのは面倒かもしれないけれど、干物めしのおいしさは、身がきゅっと縮んで嚙みごたえとうまみが増した存在感に負うところ大。何度か焼きたての熱い干物をほぐして混ぜてみたけれど、身がほろほろに崩れて「がつん感」が消え、上品な鯛めしみたいになった。そのとき思ったのは、干物めしはちょっと下世話なうまさがいいんだな、ということ。
冷めた干物には、焼きたての熱さには宿らない味がある。たまに、旅館の朝ごはんのお膳に半分冷めた干物が現れることがあるけれど、そういうときは〝この冷えたのがうまい!〟と早々に気持ちを切り替える。箸でほぐすのはひと手間だが、嚙み締めがいのある手ごわさが一興だ。
もう一品、冷ました干物で作る料理を紹介したい。干物めしとおなじように指でざっくりほぐした干物ときゅうりやセロリ、ピーマンのサラダ。香味野菜と干物がバチバチ真っ向勝負する力強い味だ。
体力勝負の季節には、食べて、自分を応援する。