世間の目を気にせず奔放に生きるジェヒと、自らのセクシュアリティを隠して生きるフンス。学生時代に出会い、自分らしく生きることを互いに応援し合う、かけがえのない存在となっていく二人の13年間を、パク・サンヨンの連作短篇集『大都会の愛し方』収録作品「ジェヒ」を原作にユーモラスに描いた、イ・オニ監督による映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』(公開中)。真逆の性格であるジェヒとフンスを愛すべきキャラクターとして演じた俳優キム・ゴウンとノ・サンヒョンが、20代を振り返り、30代の今の自分たちとの変化について語る。
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』主演キム・ゴウンとノ・サンヒョンが語る「私って、誰なんだろう?」と模索した20代の日々のこと

──ジェヒとフンスの物語は、「果たして自分は何者なのか?」という自己探求の時代から始まります。キャラクターとほぼ同世代のお二人ですが、当時キム・ゴウンさんは演劇学校で役者を目指されていて、ノ・サンヒョンさんはアメリカの大学に通われていたと思います。当時はどんな学生で、どんな気持ちで過ごしていましたか?
ノ・サンヒョン 僕は本当に平凡な、アメリカの学生でしたね。勉強もしていたし、遊ぶのも好きでしたし。好奇心も旺盛で、いろんなことに関心を持っていました。芸術分野にも興味はありましたが、当時はその分野を経験できるきっかけがなかったんです。実は、軍隊に入隊するために韓国へ戻ったのですが、そのタイミングでいい機会と巡り合い、それがきっかけで芸能の世界に足を踏み入れて、今があるんですよね。
キム・ゴウン 私は子どもの頃から映画が好きだったので、芸術総合学校へ進学しました。そこで演技を学んでいたときに言われたのが、「自分を起点として、自分から出発しなさい」という言葉で。「それってどういう意味なんだろう?」と初めて気になったんです。その頃から、自分について、私とは誰なのかを考えるようになりました。また、高校が私立だったので、そこに通わせてくれた両親への感謝の気持ちも強かったですね。なので、自分を信じてくれている両親の気持ちに応えるためにも、がんばって、責任感を持って通いたいという思いと、「私って誰なんだろう?」ということを考えながら、一生懸命学生時代を過ごしていました。

──本作では、ジェヒとフンスの13年間が描かれていて、その中で変化もあれば変わらない部分ももちろんあると感じたのですが、お二人は13年前と今、どこが変化し、どこが変わらないと感じますか?
ノ・サンヒョン 確かに、そのままの部分もあるし、変わったところもありますよね。おそらく、変わらない部分が自分なんだろうなと。本質的に、哲学的なこと、人生とはどんなもので自分はどういう人間なのか、世の中で起こるさまざまなことについて知りたい、見つめたいという好奇心が強く、知識を得たい気持ちがありました。いわば、そういった探究精神が自分の根幹にあるものなのかなと思います。それは、そこを少し抑えたいと思っても消せない部分ですよね。そして、自分の人生をいかにしてより豊かにできるのかを考えたいという意志は、今も持ち続けていますし、さらに追求しているところではあります。ただ、その探り方、方式、アプローチは少しずつ変化しているのかなと。時間の流れとともに自分も成長していますし、自分が生きてきて、いろんな経験をして得た知識から、行動や考え方が少しずつ変わって、また違うかたちでいろんなことを試しているなと感じています。
キム・ゴウン 今にして思うと、20代はとにかく自分に集中していて、自分が達成したいもの、夢、理想など、自分のことばかり考えていたので、視野が狭かったと思います。そして、例えば辛いことがあったりすると、それをものすごく辛いこととして大きく受け止めてしまうようなところもあったので、融通がきかなかったと言えるかもしれません。現場でも、感情を表すシーンを撮影するときには、そのシーンに囚われてしまい、自分自身を苦しめて、周りが見えていなかったような気がする。なぜかというと、演技をして自分の夢を叶えたいという気持ちが、私にとって人生の半分を占めていたと言っても過言ではない時期だったからだと思います。でも、20代序盤から時間が経つにつれ、自分のことを見つめる、集中することは同じであっても、周りの方が大事になってきたんです。「自分はどんなときに幸せなのか?」と問いかけてみたときに、自分の仕事を見てくださる人がいて、喜んでくれて、満足してくれる人がいる。そういう周りの人がいるからこそ、自分はやりがいや達成感を感じることができるんだと思ったんです。そんなふうに少し考え方の方向性が変わっていきました。そして、力を抜くこともできるようになったなと。
──確かに20代は、力みが出てしまうものですよね。
キム・ゴウン 本当にそうで、「これが絶対やりたいんだ!」とか「絶対にやり遂げるんだ!」と強く何かを欲していると、体に力が入り過ぎてしまうんですよね。でも、力を抜いたら、むしろ自由に演技ができるようになって、現場でも自由になれた気がするんです。私は一人では何もできないのだと知ったことで、現場でも、笑顔で仕事をしたいと思えるようになった。そうやって以前とは違う考え方が生まれてきたんです。だから、今の方が、とても満足しながら、楽しく仕事ができていると思います。

Photo_Asuka Ito Text&Edit_Tomoko Ogawa