作家、朝倉かすみが綴る全7話のウェディングモノローグと〈NOVARESE〉のドレススタイル。自分らしい、自由なブライダルを叶える、連載ストーリー最終回。
ノバレーゼ × 朝倉かすみ 連載短編小説 monologue:my wedding stories 第7回(最終回)「白い薔薇」

第7回
「白い薔薇」
きみが花嫁になるとき、ぼくは花婿になる。
未だに信じられないきもちでいっぱいだ。このぼくが黒いタキシードを着るなんて。まあまあデカい蝶ネクタイをしめ、ぴっかぴかのエナメル靴を履き、左胸にブートニアなるものを飾るなんて。
「説明しよう。ブートニアとは花婿の胸に挿すちいさな花で、だいたいは花嫁の持つブーケとお揃いである」
相当おしゃれな衣装屋さんで、タキシードの試着をしながら近藤と辺見に言った。「なるほど」と二人は鏡に映るぼくに応じた。
「なお、ぼくのブートニアは白薔薇になる模様」
なにか喋ってないと間がもたなかった。近藤と辺見が「ほぅ」と声を揃える。近藤はさっきから顎をつまんだり揉んだりし、辺見は腕組みをしたまま足を踏ん張っていた。
きみは急な出張だった。「お母さんに付き合ってもらったら」と言っていたが、「このトシで母ちゃんに洋服選んでもらえるかよ、七五三じゃないんだから」とぼくは大きく出たあと、近藤と辺見に頼み込んだ。
我ら三人はラジオの某深夜番組のリスナーだった。出会ったのは四、五年前。ラジオ局で、パーソナリティである某コンビ芸人の出待ちをしていたときに言葉を交わし、その後、ファミレスで始発までだらだら話した。某深夜番組は終了したが、我らはたまに集まった。うまいカレーやラーメンを食いに行ったり、フェスに出かけて「やっぱKjカッケーわ」と言い合ったりしていた。
「ちなみにだが、白薔薇の花言葉は『わたしはあなたにふさわしい』だったりする」
「マジか!」
近藤と辺見はやっといつもの声を発し、少し笑った。調子が出てきたらしく、ぼくに黄色っぽいタキシードを試着させ「ゲッツやれ」とか「ピッカチュウって言え」とからかった。
花婿衣装一式は、担当してくれた店員さんのセンスで決まった。ぼくはとにかく「普通のやつ」がよかった。近藤と辺見も同意見だったのだが、もとよりファッションに疎い上にウェディング方面への興味の薄かった我らゆえ、なにが「普通」なのかさっぱり分からなかった。店員さんにすがるようにして「普通の、普通の」と連呼して、決めてもらったのだった。
「やっべ、なんか緊張してきた」
「オレら関係ないのにな」
帰りに寄った居酒屋で近藤と辺見がある程度真面目な顔つきで言った。入場、ケーキカット、花束贈呈。ぼくだって、ウェディングパーティのどの場面を想像しても緊張する。でも、ようく考えてみると、いくつもの喜びが緊張に勝るのだ。
「説明しよう。その喜びとは、まず彼女と出会えたこと。好き同士になれたこと。一生をともにしたいと思い合えたこと。それらに加えて、ぼくらの周りのひとたちが喜んでくれる喜び、さらに、光り輝く彼女のドレスすがたを見られる喜びなどである」
酒の勢いを借りたが照れずに言えた。ぼくはきみにふさわしいかな。飽きるほど繰り返した自問が胸に浮かぶ。今すぐきみに会いたくなった。
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朝倉かすみ
作家。1960年北海道生まれ。デビュー作は『コマドリさんのこと』(2003年)。『田村はまだか』『満潮』など数々の人気作を手がける。昨年、『平場の月』で山本周五郎賞を受賞。本連載最終回にあたり朝倉さんからメッセージが。「7ヵ月間ありがとうございました。2021年は明るく楽しいこと、いっぱいありますように!」
光を浴びる
優美なラッフルドレス
今月のテーマは「光耀(こうよう)」。光耀とは、文字通り光り輝くことをさす。「幸せを一身に受ける花嫁はご自身が光り輝いていますが、その美しさを優しく包むドレスをイメージしました」と、〈ノバレーゼ〉ディレクターの城昌子さん。
波打つようなラッフルスカートが特徴のエアリーなAラインドレスで、レースにビーディングを施したトップスは上品に煌めく。
「ラッフルスカートは光跡にみたてオーガンジーをたっぷりと使い、華やかな印象に仕上がっています。胸元にはクリアなビーズを縫い付けて。主役らしい晴れやかな1着を特別な日に選ぶのも素敵ですよね」。
ドレス¥370,000*購入価格、¥250,000*レンタル価格(ノバレーゼ)、イヤリング¥70,000*購入価格、¥15,000*レンタル価格(ジェニファー・ベア|以上ノバレーゼ銀座)
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城 昌子
〈ノバレーゼ〉ブランドディレクター。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ美術学校卒、プレタポルテのデザイナーなどを経て現職。ドレスやテキスタイルのデザイン、バイイングにスタイリング、ブランドのディレクションを行う。
問い合わせ
ノバレーゼ銀座
Tel. 03-5524-1117
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Photo:(landscape)Yuka Uesawa Text&Edit: Aiko Ishii