まさかまさかの、『カメ止め』フランスリメイク版が2022年7月15日(金)に公開! しかも監督は2011年公開の『アーティスト』でアカデミー賞で5部門に輝いた、フランス出身のミシェル・アザナヴィシウスで、今年のカンヌ国際映画祭でオープニング上映されたって? まるで嘘のようなホントの話。監督に話を聞いたところ、オリジナル版をリスペクトするべく、さまざまな苦労があったそうで……。
『キャメラを止めるな!』ミシェル・アザナヴィシウス監督にインタビュー。「原作の“面白いけどなんか変”というバランスを保つために」

──この映画の前半では、「廃墟でゾンビ映画を撮影していたら、本物のゾンビが現れ……!?」というあらすじのゾンビ映画『One Cut of the Dead』が、30分ワンカットで流れます。超低予算ながら大ヒットしたオリジナル版の日本映画『カメラを止めるな!』(17)では、この前半にOKが出るまで6テイクかかったそうですが、今回のリメイク版ではどうでしたか?
丸4日かけて、全部で14テイク撮ったんだ。
──14テイク! 血のりなどで、すぐやり直しが効かないぶん、大変じゃなかったですか?
そうだね。それに、長回しを「あまりいい出来にしない」ように気を付けなくてはならなかったし。撮影前に5週間もキャストとリハーサルしたら、ふつうは素晴らしいショットを目指すよね。でもこの映画では、“ヘタなショット”を撮りたかったんだ。それが逆にチャレンジングだったね。
──「あまりいい出来にしない」、ですか。
たとえば、テンポの悪さ、ぎこちない演技、安っぽいSFX、不明瞭なストーリーテリング。観客は前半で、「自分は一体何を観させられているのだろう……?」と思うはず。はっきり言って駄作だからね。でも後半では、登場人物たちの抱えていた問題が明かされることで、共感できるし、笑えるようになる。この後半のために、前半ではヘタなショットを突き詰める必要があったんだ。
──劇中の設定としては、主人公であるフランス人映画監督のレミー(ロマン・デュリス)が、B級映画専門チャンネルからの依頼で、「日本の大ヒット作『One Cut of the Dead』をワンカットで生中継する」という無茶な企画に挑みます。『One Cut of the Dead』はもともと、オリジナル版の映画内映画ですよね?
オリジナル版の要素を設定に組み込むのはクールなんじゃないかと思って。つまり、メタ構造というか、入れ子構造になるわけで。それに、フランスでゾンビものはそこまで人気じゃないから、企画内容を「ゾンビ映画のワンカット生中継」とするよりは、「日本の大ヒット作のリメイク」とするほうが自然なんだ。
──オリジナル版にも出演した、竹原芳子さんが引き続き、日本人プロデューサー役を演じていますね。その名もマダム・マツダ。
竹原さんのクレイジーな存在感のおかげで、「たしかに彼女ならこんな奇妙なアイデアも思い付くだろうな」という説得力が生まれているよね(笑)。
──マダム・マツダと、通訳の女性とのコンビネーションも最高でした。
本当に面白いコンビだよね。「ロスト・イン・トランスレーション(※ある伝達事項が翻訳を通して失われること)」的なことが起きたり。実際、自分の言語が分からない人たちに囲まれているとつい、口が悪くなったりするよね。でもだいたい通訳の人が気を利かせて、上品な表現に言い換えてくれるんだ(笑)。
──通訳役の方は日本語もフランス語も堪能でしたが、役者なんですか?
成田結美さんという日本人の女優だよ。フランスを活動の拠点にしていて、フランス語がとても上手なんだ。
──『One Cut of the Dead』の登場人物の名前が、「ヒグラシ」「チナツ」など、日本名のままというのもシュールで笑えました。
オリジナル版だと、前半は演技が素なのか、わざとなのか分からないよね。制作当時、キャストの知名度が低かったことを逆手に取り、そこをあえてあいまいにしたわけだ。でもこのリメイク版ではロマン・デュリスをはじめ、キャストは有名どころだから、同じことはできない。それで、役名が日本名という奇妙なジョークを追加しようと思ったんだ。「ナツミ」という名前のフランス人女性がいるのに、誰も突っ込まないという奇妙さ。オリジナル版と同じように、前半の「駄作なのに退屈ではない」「面白いけどなんか変」という絶妙なバランスを保つためにね。
──カメラが回っているのに、レミーがスタッフに思わず「ジョナタン」と本名で呼びかけてしまったり(笑)。
そうそう。あのやりとりはフランス版ならではだよね。
──『One Cut of the Dead』の主演女優、アヴァ役のマチルダ・ルッツはイタリア出身ですが、いかにもダリオ・アルジェントやマリオ・バーヴァの映画など、イタリアンホラーに出てきそうな雰囲気の方ですね。
マチルダは『REVENGE リベンジ』(18)という、フランスのサバイバルスリラーで注目されたんだ。まるで人形のように完璧な容姿で、ホラー映画においてステレオタイプな、「邪悪なモンスターに襲われるかわいい女の子」役を演じるのにぴったりなんだよね。その上、役者としてとても優秀で、30分ワンカットを難なく演じきってくれたよ。
──音楽を手掛けたのは、『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)と『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)で、2度もアカデミー賞作曲賞を受賞した、フランス出身のアレクサンドル・デスプラです。音楽はどう決めていきましたか?
今回リクエストしたのは、「ジョン・カーペンターの映画音楽の延長線上で作曲してほしい」ってこと。「カカカカカカ」と、小刻みなリズムの電子音楽とかね。アレクサンドルは詩的でシンフォニックな曲作りで知られているんだけど、実は、作曲家デビューはTVのコメディ番組。茶目っ気のあるチープな電子音楽だったり、シンプルで感動的なピアノ曲だったり、器用にいろいろなタイプの曲作りができるんだ。
──まさにそのジョン・カーペンター的な、不穏な音楽を活かしてのギャグも効いていましたね!
ありがとう。あとは、サウンドデザインでいろいろ遊んでみたんだ。風の音とか、いかにも怖いサウンドを取り入れてみたり。アレクサンドルとは、楽しさと真剣さとの間で、すごくいいムードでコラボできたと思うよ。
──監督は、白黒のサイレント映画『アーティスト』(11)や、ジャン=リュック・ゴダールの2番目の妻、アンヌ・ヴィアゼムスキーによる自伝的小説を映画化した『グッバイ!ゴダール』(17)も含め、映画作りを通じて、「映画そのもの」について考えてきた印象です。今作で、新しい発見はありましたか?
内容以上に、リメイクという体験が大きくて。僕はつねづね、「もし3人の監督が、一言一句まったく同じ脚本をもとに、映画を撮ったら?」と空想していたんだ。三者三様の作品になるのか、それとも独自性は失われてしまうのか。今回、オリジナル版に忠実なリメイクを試みることで、その空想に似た実験ができたんだけど、結果的に自分らしさは消えなかった。たとえリメイクだったとしても、パーソナルな映画にすることができると分かったんだ。
──インタビューの終わりに聞きたいのが、映画の終わり方についてです。監督の作品は、戦争映画の『あの日の声を探して』(14)でさえエンディングが明るかったり、どこかしら救いのある感じがあります。そこに何かモットーはあります?
うーん、どうかな……。別にハッピーエンドにしたいわけじゃなくて、展開が積み重なった結果なんだよね。『あの日の声を探して』の場合は、観客に注意深く観ることを要求するタイプの映画だったし、あまりにも絶望的な物語だったから、バッドエンドで終えるわけにはいかなかった。どこかに希望を持たせなければと思ったんだ。
──一作一作、エンディングはバランスを見て決めているということですね。今回の『キャメラを止めるな!』は、オリジナル版の爽快なエンディングに似て、ザ・フラテリスの曲とともにカラッと明るく終わります。
この映画のポイントは、「みんなで力を合わせるのっていいよね」ということ。まるで大惨事のような撮影だったとしても、チームが全員揃って仕事をやり遂げた瞬間には、強く感動するものだよね。だから、明るく終わらせる必要があったんだ。是が非でもハッピーエンドにしたいわけじゃない。『グッバイ!ゴダール』は、ハッピーエンドじゃないしね。
──そうですか? 私は「ゴダールはまだ全然諦めてないんだな」という印象を持ちましたけれど。
ああ、たしかに! ラブストーリーはハッピーエンドではないけど、ゴダールの監督人生について言うなら違うよね。劇中、ゴダールが築き上げてきたものが一旦は壊れてしまうわけだけど、彼は何かを創造しては破壊し、また創造しては破壊することで、自分自身を発見してきた人だ。そうやって我が道を突き進み、“ジャン=リュック・ゴダール”になっていく。あなたの言うとおりだ。やっぱり、バッドエンドではないね!(笑)
『キャメラを止めるな!』
とある自主映画の撮影隊が、山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。“本物”を求める監督はなかなかOKを出さず、とあるシーンのテイクは31テイクに達するほど。そんな中、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる! 大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。そんな“30分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮った、「フランスの」ヤツらの話。
監督・脚本: ミシェル・アザナヴィシウス
音楽: アレクサンドル・デスプラ
衣装: ヴィルジニー・モンテル
出演: ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、竹原芳子
配給: ギャガ
2022年/フランス/シネスコ/5.1chデジタル/112分/英題:Final Cut
7月15日(金)全国公開
© 2021 – GETAWAY FILMS – LA CLASSE AMERICAINE – SK GLOBAL ENTERTAINMENT – FRANCE 2 CINÉMA – GAGA CORPORATION
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ミシェル・アザナヴィシウス
1967 年、フランス・パリ生まれ。1988年に有料テレビチャンネル「Canal+」でキャリアをスタートさせる。ジャン・デュジャルダンと、私生活のパートナーでもあるベレニス・ベジョが主演したスパイ・パロディ映画『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』(06)が各国で大ヒットを記録。再び二人を主演に迎えた『アーティスト』(11)が、アカデミー賞の5部門受賞をはじめ世界中の賞を総なめにし、国際的に高く評価される。その後、紛争で荒廃したチェチェンで交差する3人の人生を描いた『あの日の声を探して』(14)を経て、2017 年に製作会社「Les Compagnons du Cinéma」を設立。第 1 作の『グッバイ・ゴダール!』(17)が、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。その他の監督作に『フレンチ大作戦 灼熱リオ、応答せよ』(09)、『The Lost Prince(原題)』(20)など。
Text&Edit: Milli Kawaguchi