全てパソコンの画面上で物語が展開していくサスペンス・スリラー『search/サーチ』の続編は、ストーム・リード演じるロサンゼルスに住むデジタルネイティブ世代の高校生ジューンが、南米・コロンビアを旅行中に突然消息を絶った母を探す物語。前作で編集を手がけたウィル・メリックとニック・ジョンソンが共同で監督を務める本作。大きなプレッシャーの中、全く新たなスリルと感動を与えてくれる『search/#サーチ2』を手がけた二人に話を聞いた。
『search/#サーチ2』の監督デュオに聞く、全編PC画面上でストーリーを語るという挑戦
──前作『search/サーチ』で編集を手がけたお二人が、続編の脚本、監督をすることになって、いかがでしたか?
ウィル・メリック(以下、ウィル):もちろん、初監督ということでプレッシャーもありました。でも、僕らはかなり長い時間をかけて前作を編集した際、コンピュータ画面を通して語られる映画がどんなものなのかを理解しようと努めていたと思います。それで、まだ探求できることがあるという可能性を感じながら、プロジェクトを終えたんです。コンピューター・スクリーン上で語る映画言語を理解した上で、活用できそうなアイディアが前作の途中からどんどん出てきていたので、前作のスピリットを受け継ぐ、続編のto do listは既にたくさんあったんですよね。
ニック・ジョンソン(以下、ニック):そうそう。前作ファンにも愛される、後継作としてふさわしいものはつくりたいけれど、焼き直しにはしたくないと思っていました。主人公をテクノロジーに精通する若い世代に設定したことで、前作とはまったく異なるトーンとペースで遊ぶことができんじゃないかなと。
──確かに、前作(父親が行方不明の娘を探すストーリー)とは全く別のスリリングな作品になっていました。2作を通じて、スクリーン・ライフというジャンル(すべがコンピューター、タブレット、またはスマートフォンの画面に表示されるストーリーテリング法)をより映画らしくするために、どんな工夫が必要だと実感しました?
ニック:大事なのは、通常の映画と同じで、常に説得力のあるストーリーとキャラクターがあることですよね。前作の監督、アニーシュ(・チャガンティ)と セヴ(・オハニアン)が書いた原案の時点で、その二つのポイントはしっかり押さえられていたので、僕らにとって重要だったのは、強い欲求を持った魅力的なキャラクターを描くこと、そして感情を動かすストーリーにすることでした。そこが弱ければ、ユニークなフォーマットもただのノイズになってしまいますから。
ウィル:スピルバーグやヒッチコックみたいに、キャラクターが知らないことをカメラ遊びで見せていくような映画が大好きなので、キャラクターの見えないパーツをカメラで明らかにしていくことが僕らなりのアプローチだったと思います。
──プロダクションのプロセスは、アニメーション映画とも近いのでしょうか?
ニック:本当に技術的な映画なので、ほとんどアニメーションみたいなものと言えると思います。コンピュータの画面上で行われる全てに、多くの時間を費やしました。パソコン上でiMessageを閉じようとしたら、自分たちがつくった映像で閉じることができなかったということが実際にあったし(笑)。
ウィル:で、どれくらいの時間がかかったかというと、コロンビアで4日、アメリカで撮影した約一ヵ月弱、そして、ポストプロダクションに2年かかったかな。つまり、アニメーションをつくるようにただただ座って作業してました。
──撮影方法もかなり通常の映画とは異なるんでしょうね。
ニック:そうですね。物理的に、あらゆるものを使って、非常に複雑に目線も含めた役者の動きを固定していく必要がありました。モニターを見ながらカット割りをしたり、後でやることを想定しながら映像素材をつくっていきました。だから、ちょっと変わった撮影方法ではありましたね。
──ある意味、マウスの動きがデジタルネイティブの主人公ジューンのキャラクターを体現していて、カーソルに共感している自分が新鮮でした。
ウィル:この映画がある意味アニメーション的だという話とつながってくると思いますが、主人公の顔が見えない状態でマウスだけを追っていると、クリックするタイミングや、文字を打つことを躊躇している彼女の思考過程が見えてきますよね。何を考えているかをマウスの動きだけで伝えるわけなので、キャラクターを一つの点で見せるみたいなことをしているんです。
ニック:マウスの動きもそうだし、タイピングをするスピードひとつとっても、ジューンの優柔不断や恐怖のようなものを表現する機会が多くありました。僕がこの映画で最も好きなシーンは、彼女が何かをタイプし始めて、躊躇するところ。そこで彼女は、自分が信じていることが違うかもしれないという疑惑を持ち始めていることがわかる。ジューン演じるストーム・リードの姿が見えないときでも、彼女の演技は続いていて、それが全てアニメーションで表現されているわけです。
──映画館の大きなスクリーンで、パソコンの画面を大勢の人と一緒に観るというのも、かなりレアなことですよね。
ウィル:確かに、この映画を人と一緒に観るのが楽しいのは、きっといつもは一人で見ているような瞬間を、多くの人と共有できるからなんじゃないかなと。
ニック:そうそう。本作をつくる上で最も重要だったのは、没入感を高めて演劇的な要素を取り入れて、基本的にコンピューター・スクリーンしか映っていなくても大画面で観客が一緒に見られるような作品にすることでした。僕らは、幸運にもアメリカの観客と一緒に上映を観ることができたのですが、みんながスクリーンに向かって叫んだり、拍手したり、楽しい時間を過ごしていることが伝わってきて最高でしたね。映画監督として、これほどやりがいのあることはないと思います。
──ほとんどのシーンで、俳優は一人でパソコンやスマートフォンのカメラに向かって演技をしているわけですが、俳優たちはどうやってお互いの関係性を築いていったのでしょうか?
ウィル:ストームは、グリーン・バッグで仕事をしたことがあるそうですが、それよりも全然難しいと言ってました(笑)。僕らもそこはあらかじめ懸念していたのですが、俳優たちが自分のシーンがなくても自発的に顔を出してくれて、演技をしながらお互いを見ることができるようにしてくれたんです。
ニック:キャストたちは信じられないほど時間を惜しまずに協力してくれました。それは、何もないところから演技をすることがどれだけ大変か、わかっているからなんですよね。お互いを尊重し、真剣に仕事に取り組む俳優たちと仕事できたことに心から感謝していますし、そういった環境だったからこそ、自然とオーガニックな感情を引き出すことができたのだと思います。
──本作は、複雑にもなりうる母娘関係を描く、ファミリー・ドラマでもありますね。個人的な感情や経験を脚本に取り入れたのでしょうか?
ニック:もちろんです。僕らにはそれぞれ妹がいますし、できる限り多くの個人的な経験をもとにしています。全てを参考にしたわけではありませんけどね。僕の妹と母は、互いに愛し合っているけれども、よくいがみ合っているんですよね。僕自身、母が子どものためにしてくれることを当然のこととして受け止めていましたし、親を一人の人間として見るのは難しいというか、まあ、いろいろ言ってくる親ってウザいじゃないですか。でもこの映画は、ジューンが成長し、母親が他者であり、感情を持ち、自分自身の人生を歩んできたことを知る話なんですよね。
ウィル:自分が思っている以上に、親も多くのことを抱えていることに気づくのはそこそこ成長してからなんですよね。それは、家族だけじゃなく一般的な人間関係にも当てはまることで、僕らは誰かについて多くの仮定を立ててしまうけれど、もしかしたら実際はそうじゃないかもしれない。
──前作から引き続き、お二人で活動されていますが、脚本、監督をする際に、役割分担はあるのでしょうか?
ウィル:全部のプロセスを二人で交代しながらやるんですけど、とても自然な流れでどちらが何をするかを決めるんですよね。コインや消しゴムをひっくり返して決めることもあるし、決まった担当というのはないんです。
ニック:ガーデンゲーム、ボッチェゲームを3回やって、どっちの名前が先にクレジットされるかを決めたりね(笑)。そもそも、パンデミックの最中にこの作品が始まったこともあり、脚本を一緒に書いていたんですよね。だから、制作に入る頃には、かなり共通認識を持てていたんです。実際、撮影中はストレスが多いし、いろいろなハプニングも起こるものですよね。だから、同じ方向を向いて、必要なことを正確に理解し合うための準備をすごくしたんです。そのおかげで、とてもシームレスに、どちらに話しても変わらない存在として、俳優やクルーと接することができたと思います。
──そこにたどり着くまでに、口論することもあるんですか?
ニック:ある意味、結婚生活みたいなものだと思います。ちょっとした意見の相違やケンカも、自分たちが必要とするものを明確にできるならいいですよね。クルーやキャストに会う頃までに、僕ら二人が同じ考えを持っていないとは思われないように、問題は解決しておきますね。
──そもそも、プロデューサーのアニーシュ、セヴ、ナタリー(・カサビアン)という5人のストーリーテラーによるチームとして、『search/サーチ』、『RUN /ラン』、そして本作を手がけていますもんね。チームとして活動することのメリットについてどう考えていますか?
ウィル:アニーシュ、セヴ、ナタリーの名前を挙げてくれて嬉しいです。『search/サーチ』からここにつながる道が開かれたのは、チームだったからだと思います。「二人の頭脳は一人の頭脳に勝る」ということわざがありますが、彼らが書いた原案をチーム全体で映画に仕上げるときは、いつも最高のアイデアを見つけることができて、一人でやるよりもいい結果につながるんですよね。
ニック:僕らのグループは、ほとんどライターズ・ルーム(複数の脚本家が集って、全体のストーリー展開から各エピソードの構成までを決めていくシステム)みたいなもの。本作の監督をしていたときは、僕らが彼らをリードするかたちでしたが、僕らはお互いのストーリーや直感を信頼していて、それぞれが異なるものを持ち寄っていると思うんです。それに、好みはさまざまだけれど、つくりたい映画はみんな一緒なんですよね。誰もが楽しめて、映画館で観たいと思うような、観たら好きになってもらえるようなものであってほしい。だから、たくさんの意見があって、みんなで一緒につくれるという状況にかなり助けられました。
ウィル:僕ら全員が、自分がやりたいことを具体的に考えて、アイデアを出すからうまくいっているんだよね。一般論を言うようなバイブスを出す人はいないんです。だから、自然に動き出すことができるというか。
ニック:エゴが強すぎないというのも大きなポイントかも。みみんなある程度のエゴは持っているものなんだけど、僕らは自分たちよりもストーリーを大事にしているというか。だからこそ、自分が考えたアイデアがうまくいかなかった場合、「ああ、これは僕の間違いだった」と、すぐに過ちを認めることができるんです。そういう5人じゃなかったら、うまくいってないよね。
──じゃあ、今後も5人のチームで制作を続けるんですか?
ウィル:そうだね、次の作品では、セヴとアニーシュが編集して、僕らがプロデュースして、ナタリーが監督するかも(笑)。1作目で編集をした僕らを信頼して、今回、監督する機会を与えてくれたのは、本当にクールなことだし、チームのみんなが大好きなので、これからも間違いなく一緒に仕事をしていきたいと思っています。
──インターネットが映画を取り巻く環境を変えたと思いますが、お二人はどんな体験を映画に求めていますか?
ニック:僕らは、家でも映画を観るけれど、映画館に行き、映画を観るという共同体験が純粋に好きなんですよ。最近、映画館で『RRR』を観ましたけど、めちゃくちゃ楽しくて!ああいう乗り物的な楽しいものも好きだし、直感的でカタルシスのあるものも大好きです。映画を観に行く一番の理由はそこにあると思う。
ウィル:本当に。だから僕らの映画も、家のコンピューターの前から外に出て、本作がすべてテックによって引き出されたものであることをほとんど忘れて観ながら、自分はこんなにもコンピューターに時間を費やしているのか、と問いかけてみてほしいですね(笑)。
──そういう意味で、デジタル技術がどれだけのことを成し遂げられるのかを怖いほど知らしめる作品でもありますね。お二人は、インターネットやツールとどんな距離感で付き合っていますか?
ニック:まあみんなそうでしょうけれど、僕らもインターネットとは愛憎関係にあると思っています。ただ、この映画は、比較的、インターネットやテクノロジーに関しては批判も肯定もしていないんですよね。多くの素晴らしい側面もあって、たとえば、会ったこともない人と本物のつながりを構築できる一方で、SNSは否定的な情報に溢れているし、オンラインでの会話は有害にもなり得ますよね。そして、行方不明の誰かを見つけるための素晴らしいツールにもなるし、位置情報の追跡データが保管されるなど恐ろしい影響もある。だから、バランスが大事だと僕らは思っています。
『search/#サーチ2』
ロサンゼルスから遠く離れた場所で行方不明になった母を探す高校生の娘ジューン は、検索サイト、代行サービス、SNSなど使い慣れたサイトやアプリを駆使し、捜索を試みる。人々の行動・生活がデジタルで記録される時代、母は簡単にみつかるはずだったが、不確かな情報に翻弄されていく。
監督・脚本: ウィル・メリック&ニック・ジョンソン(前作『search/サーチ』編集)
原案: セヴ・オハニアン(前作『search/サーチ』脚本・製作)&アニーシュ・チャガンティ(前作『search/サーチ』監督・脚本)
製作: ナタリー・カサビアン、セヴ・オハニアン、アニーシュ・チャガンティ
出演: ストーム・リード、ニア・ロン、ヨアキム・デ・アルメイダ、ケン・レオン、ダニエル・へニー
配給: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2023年/アメリカ/111分/原題:Missing
全国公開中
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WILL MERRICK & NICK JOHNSON
南カリフォルニア大学を卒業。アニーシュ・チャガンティ監督の『search/サーチ』(2018)の編集を手がけ、批評家たちからその革新的な編集と映像スタイルが絶賛された。続いてアニーシュ・チャガンティが監督した『RUN/ラン』(2020)でも編集を担当する。本作『search/#サーチ2』で、ウィル・メリックと共に脚本家および監督としてデビューを飾った。ニックは、ラッパーのベリーのミュージックビデオ“Belly Feat. Travis Scott: Money Go”(2016)なども手がけている。
Text&Edit:Tomoko Ogawa