小さな料理 大きな味 27
きゅうりを炒める
トゲトゲのきゅうりが出回ったら、夏が始まる。
近所にある区民農園は出入りが自由なので、ちょっとおじゃまして野菜が育つ様子を鑑賞させてもらうのが散歩の途中の楽しみになっている。ピーマン、なす、トマト、ぐんぐん大きくなる様子に目を見張るのだが、とりわけ痛快な光景はきゅうり。くいっと曲がったり、細かったり太かったり、自由気ままに暴れながら夏を謳歌している。
八百屋に並ぶきゅうりにも力が漲っている。数日前、JやUやIのばらばらの形の露地もののきゅうり6本、ひと袋250円で買ってきた。そのうち2本は氷水に浸けてパリッとさせ、味噌をつけて丸かじり。1本は薄切りにして酢の物、1本はせん切りにして冷やし中華。
残り2本の行き先は、もう決めていた。
待望のきゅうり炒め。
威勢のいい夏のきゅうりを、かんかんに熱くしたフライパンでじゃっと炒める。この食べ方は、むかし中国料理を通じて覚えたのだが、えっこれがあのきゅうり!?新鮮な驚きも味のうちだと知った。
皮をぜんぶ剝いてしまう。
ピーラーでしゅーっと剝くと、濃い緑の奥から透けるように軽やかな翡翠色が現れる。美しさに惚れぼれとするのだが、皮を剝くのは、色のためではない。たった1枚の皮だけれど、火の通り具合において、あるとないでは大違いなのだ。まんべんなく均一に、しかも「一瞬のうちに」火を通すために皮をすっかり剝く。まだらに剝くと、火の通りに差が出るのでお勧めしません。それに、ゆっくり炒めると、きゅうりから水が出てしまい、こりっこりの歯ごたえが失われる。
きゅうり1本勝負も潔いけれど、セロリと炒めたりもする。
【材料】
きゅうり2本 セロリ一茎 つぶしたにんにく一片 オリーブオイル大さじ1 塩ひとつまみ
【作り方】
①きゅうりの皮をピーラーで剝き、大きめの乱切りにする。
②セロリの筋を取り、きゅうりと同じ大きさの乱切りにする。
③フライパンを熱してオリーブオイル、にんにく、セロリ、きゅうりの順番に加えてすばやく炒め、塩をふる。
熱いきゅうりを嚙んだ音がいい。こりっ!歯切れのいい音を追いかけて水分がじゅわあと弾け、やめられない止まらない。
皮を剝くのは色のためではない、とさっき書いたけれど、熱を帯びた翡翠色の輝きは絵画のよう。きゅうりと海老を炒めると、翡翠色と赤のコントラストが冴え冴えとして、色彩美を額縁に収めたくなる。