クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。28歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.79食べることは生きること ニューアルバムについてのインタビューはこちら
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.80マーマレードジャム

vol.80マーマレードジャム
2023年は音に満ちた1年にしよう。そう決めていた。春と秋、2シーズンにわたって組んだ全国ツアーの前半戦は〜NOT ALONE~というタイトルにした。私の弾き語りを中心に、ircleというバンドでギターを弾いている仲道良さんともご一緒するツインギタースタイル。今まで回ってきたどのツアーよりもシンプルな編成だし、ライブに来てくれた人との距離も1番近い。1人でステージに立って歌う私は、だけど1人じゃない。目の前に「あなた」「君」がいてくれるから。目は心の窓、じゃないけれど、来てくれた人の瞳を見つめながら歌うとその人の心と自分の何かが溶け合ったり、弾けたりする瞬間があって。きっとそういう瞬間のために音楽をしているんだと思う。〜NOT ALONE〜はそんな想いから成るツアータイトル。秋に開催する後半戦のツアーは、今年の2月15日、私のデビュー日にリリースした4年ぶりのアルバム『Naked』をそのままツアータイトルにした。こちらはバンド編成でZepp規模のライブハウスに、正しく「裸の心」で乗り込もうと意気込んでいるんだけれど…1年は春夏秋冬の順番に巡るのである。そう。気づけば4月。5月から始まる春ツアーも、もうすぐそこ、とあって、私はスタジオにこもりきりの日々である。譜面とギターとメトロノーム。スタジオには窓がないので時間感覚がなくなっていく。ふとお腹が減っていることに気付いて時計を見るとランチタイムはとうの昔に終わっている時刻。でも外に出ると、夕方と言うには些か早すぎる景色が広がっていて。ビルの日陰から日向に1歩踏み出し、オレンジに煮詰まる前の透明な飴色の光を顔で受け止めて大きく深呼吸した。子供の頃、マーマレードのジャムを作った時のことをなぜだか思い出した。
「いい?煮詰め過ぎちゃいけないの。完全なオレンジになる前の、透き通った感じの時に潔く火を止めるの。お鍋の余熱を信じて、後は待つだけ」今よりうんと若かったあの人の声が聞こえて、そりゃ私も28だもんなとしみじみした。今晩あたり「元気?」って電話でもしようかな。手に持っていた財布をGジャンのポケットに無理やり突っ込んで、この時間でも営業している蕎麦屋を目指し歩いた。
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家入 レオ
2022年2月にはデビュー10周年を記念して「10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター」を開催。
2023年2月には約4年ぶりとなるアルバム『Naked』をリリース。さらに、年内に2本のツアーが決定している。 ginzamagでのインタビュー: 家入レオが“Naked”な自分に原点回帰して気づいたセルフラブの大切さ「毒も見方次第で“あなたらしさ”になるから」 家入レオ、愛と憎しみの区別がつかなくなった「未完成」。
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