クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。28歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.85 心で流す汗。ニューアルバムについてのインタビューはこちら。
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.86
永遠の約束よりも
vol.86 永遠の約束よりも
ircleのギタリスト仲道良さんと私で5月から全国を回っていた春ツアー「〜NOT ALONE〜」全11公演のファイナルを先日、渋谷「WWW X」で迎えた。事務所の社長をはじめとする5人のチームと乗り込んだハイエースで向かった各地のライブハウス。その日はじめて出逢い、ご挨拶する現地の音響や照明の方々。リハでサウンドチェックと心のチューニングを済ませたら、ライブの幕が上がる。即本番。一期一会。はじめましてから関係構築の階段100段すっ飛ばして、一緒にライブを作る戦友であり、クルーになる。
この感覚を日常にそのまま持って帰ると、人との距離感がバグってる面白い人になりかねないけど。ライブの為にスケジュールやお金の都合を付けてくれる人がいること。会いに来てくれる「あなた」や「君」が笑顔になってくれることこそが私の指針。非日常のライブなんだから、バグって上等なくらいの気持ちで、提案したり、されたり。みんなの笑顔が見たい。その為に出来ることは、恥ずかしがらずにトライする自分でいたいと思った。
そんな風に、その日出会った人、その日来てくれたみんなと作るライブは動物的な感覚を呼び覚ましてくれたし、スマホで検索すれば大抵のことは調べられる時代を生きていると、数秒後にステージで何が起こっているか予測できないライブに、改めてどうしようもなく心惹きつけられた。目が離せない、けど冷静で、でも全く制御できない。このスリルとholyな気持ちはやっぱり上手に言えない。
ツアーの後半からは、そんな「ライブ」というモノに魅せられ続けているであろうスタッフの方達が、私たち5人の輪の中に加わってくれた。2023年の秋ツアーも一緒に作り、回ってくれる新しい仲間。それまで楽器や機材の搬入、搬出を5人でしていたけど、スタッフがいてくれるとこんなにもスムーズなのか!とみんなで笑った。誰1人かけてもライブはできない。
ライブに来てくれてる人の笑顔を見るにはどうしたら良いんだ?どうしたらまた、みんなの顔が見られる?私に会いに来てくれる?って。音楽に、音に向き合ってた。でも、今回ハイエースで移動しながら、音楽は音だけじゃなくて、人と向き合うことなんだ〜ってじんわりした。焼肉行って大盛り白ごはんを食べた後〆のうどんを啜ってるスタッフに仰天したり。散歩しようとしたら雨が降ってて、貸し出しの傘もなく困っていたら、コンビニ行きたかっただけなのでこの折り畳み傘使いますか?と申し出てくれたり、次のサービスエリアまで運転頑張って!とみんなで「負けないで」を歌ったり。本当にそんな取り止めのない、何気ないことが、私を小さく癒し、ゆっくり励ましてくれた。こんな風にただ当たり前に、ライブに来てくれた人の心に笑いかけたらきっと大丈夫。そう思って立ったステージ。1公演、1公演忘れない。良い面ばかりじゃない。キツかったことも、悔しかったことも、完全に昇華できていない痛みもある。だけど、それでいい。だって、始まったばかりだもの。また始めることが出来たんだもの。永遠を約束するよりも、全力で今届ける音楽を私は信じる。
Text:Leo Ieiri Illustration:chii yasui