林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。連続殺人事件の真相がついに明らかに。そして悠日(仲野太賀)、鈴之介(林遣都)と星砂(松岡茉優)との関係の行方がどうなるのか。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが最終話を振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)→9話のレビュー
まだ語りたい『初恋の悪魔』最終話。会えなくなっても4人はそこにいる

大切な人のために悪魔になりかけた鈴之介
『初恋の悪魔』が最終回を迎えた。
10話を貫く連続殺人事件。兄の死の真相。たいせつな人が被せられた罪。ミステリー要素はこのドラマの大きな柱だった。けれども、それらの真相よりも強く惹かれたのは、事件に対峙する馬淵悠日(仲野太賀)、鹿浜鈴之介(林遣都)、摘木星砂(松岡茉優)、小鳥琉夏(柄本佑)4人の言動と関係性だった。
異変を察知した琉夏からの着信を見て、一旦はそのままにするも、顔を見合わせて全力で来た道を戻る悠日と鈴之介は、まさに「気が合ういいバディ」だ。
4人の少年を殺害した雪松署長(伊藤英明)の息子・弓弦(菅生新樹)。彼が話す星砂、琉夏、森園(安田顕)の行方は、行き当たりばったりの作り話で、らしさがどこにもない。
駆けつけた雪松からすべての真相を聞き、「悪魔を殺せるのは悪魔だけだ」と、悪魔になることを決めた鈴之介。その鬼気迫る表情。そして悠日の「生きてます!」の叫びを聞いたとたん我に返り警察官として手錠をかける姿。感情をむき出しにした彼は悪魔になりかけた、けれども大切な人の命が無事と知って、踏みとどまった。悪魔にならずに済んだのだ。
風の気持ちいい日の、最後の遠回り
目を覚ました星砂は、生活安全課の、悠日の恋人の、星砂1だった。かつてヘビ女と呼ばれた、鈴之介と時間を過ごした星砂2はもうそこにはいなかった。
星砂1はいなくなった星砂2について、小洗杏月(田中裕子)と話す。
「私だけになったら(『私の私』は)消えちゃうんだよ」
「あんた、その子のことが好きなんだね」
「だったらもう、あんたのなかにもその子は生きてるんじゃないの? お別れじゃないよ。会えなくても、離れてない人はいるの」
リサ(満島ひかり)はひと目で、出所する自分を迎えに来た星砂1が自分の知っている星砂2ではないと見抜いた。けれど星砂1のなかにきっといる星砂2に「ただいま」と話しかけ、リサにとっては初対面となる星砂1と新しい関係を築く。
星砂は、杏月と話してもう一人の星砂をあらためて受け入れたように見える。だから、リサを迎えにもいけたのだろうし、リサの求めるまま、自分の中にいるもうひとりの星砂にリサが話しかけられるようにしたのだろうし、そのうえでリサと笑いながらごはんを食べたのだろう。
けれど恋愛ではそういうわけにはいかない。悠日と互いを思い合っている星砂が、同時に鈴之介と一緒の時間を過ごすことはできない。
星砂1が戻ってきてしばらく経ったあと、ふいに星砂2が鈴之介を訪ねる。
消えてしまうからと思い出を残さないようにしていた星砂2が、
「あなたのことが好きになりました」「あなたはとても素敵な人です」「これからもあなたのことを思っています」
と伝える。それは、きっと一生忘れられないような言葉だ。お互いに。
さらにそこから二人が交わすのは、それぞれの過去の話と好きなもの。二人が共有する記憶が、このひと晩でどんどん増えていく。
鈴之介にとって、星砂2は「異常な人を異常と思わない人」だった。そして星砂2と過ごすうち、「変人」だった鈴之介は、素敵な人に変わった。
星砂が背中を向けて鈴之介に手を振る。風の音がする。
「風が気持ちいい日に家に帰っちゃだめだ。そんな夜は遠回りするんだよ」これは、リサが星砂に教えたこと。
だから星砂は、風が気持ちいい日に、鈴之介と最後の遠回りをした。
鈴之介がこの夜いっしょに過ごした星砂は、「会えなくても、離れていない人」だ。
この先も見続けたい4人の関係性
『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ)では、主人公のとわ子と、離婚した元夫と、亡くなった親友との不思議な三角関係があった。『初恋の悪魔』では、二人の男と、一人の中にいる二人の人格との、また違った三角関係が描かれたように見える。
10話を通じて4人は少しずつ変わった。それぞれに変わり者として、なんとなく周りとなじめなかったり、不遇だったりした4人は、お互いというたいせつな友人を得て、周りとの関係もよくなっていった。
もうひとりの星砂にもう会えなくても、星砂はいる。自宅捜査会議だって行われる。4人の友情は変わらない。できることなら4人ならではの自宅捜査会議を、あのテンポのよいやりとりを、この先もまた見たい。けれど、もし二度と見られないのだとしても、きっと彼らはそこにいるのだろう。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Edit: Yukiko Arai