クォーター・ライフ・クライシス。それは、人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半のころに訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉だ。28歳の家入レオさんもそれを実感し、揺らいでいる。「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回はvol.83母からのサプライズ ニューアルバムについてのインタビューはこちら
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.84
たぶん、ブスではない

vol.84 たぶん、ブスではない
買い物も映画も基本一人が最高と思っている私だけど、メガネを新調する際は必ず誰かに付き合ってもらうことにしている。なぜって、店で目に留まったフレームと店員さんにオススメされたフレームを鏡の前でかければかける程、自分に似合うメガネの定義が分からなくなるカオスに陥るからだ。
普段はコンタクトレンズを装着しているのだけど、数年前眼科に処方箋を貰いに行ったら「右目…これ以上度数が上がってきてしまうと今後コンタクトの会社に取り扱いがないですね」と本当に申し訳なさそうに看護師のお姉さんに最終通告?を言い渡され。「まじかー」と打撃を受けながらも「乱視も結構入ってるし、そもそも遺伝だし仕方ないかー」と絶妙な気持ちで帰路に着いたのがなんとも懐かしい。
あれからありがたい?ことに視力が急激に悪化することもなく、気づけば年号も変わり2023年。5月からスタートした春ツアーは過去最小人数のスタッフと私で全国を回っている。デビューして以来1番近い距離でお客さんに音楽を届けている日々。ハイエースに乗り込み、自分たちで搬入し撤収するライブには今まで感じたことがなかった類の手応えと充実した疲れ、そして真っ直ぐな学びがある。ツアーが始まる前は不安と期待の両方がこの胸を揺らしていた。だけどツアーが始まった今、その揺れは細い確かな光になった。胸が踊ってる。だけどしっかり地に足も着いている。先は長いけど、少しずつでも前進してる喜び。
ワンデーのコンタクトレンズは午前0時を過ぎる頃には、乾燥して目薬が手放せなくなる。「今日は夜走りで東京まで帰ります!」なんて時にはやっぱりメガネの方が楽だよなーと。家で使う分には大丈夫と視力があっていないメガネをかけていたけどこれを機に新調しよー、と友達に「次の休みにメガネ買うの付き合ってー」とラインすると「いいよー」と返事が。「視力悪すぎて、薄型レンズにしてもレンズが分厚くなるから選べるフレームすらも限定される私の人生」「そしてメガネかけると私って気づいてもらえない。びっくりおブス」と追いラインすると「たぶんブスではない」の返信。はいはいー。ありがとうございまーす!とメガネ人生繰り返してきたこのラリーを流そうとすると、友達からも追いライン。「たぶんブスではない」「おもしろいんだと思う」その文章を読みながら私は笑いが止まらなくて、改めて最高の友達を持ったなーと思った。気を遣って言われる気まずいかわいいより、笑いながらまじやばーい、別人じゃんって面白がれる方が何倍もいい!と思いながら、「だいすき」と送った。
Text:Leo Ieiri Illustration:chii yasui