パリと東京。遠く離れてしまった浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)はもう会えないのか……。3月21日、最高に美しいラストを迎えた広瀬すず×永瀬廉による青春ラブストーリー『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS火曜よる10時〜)。ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが10話を振り返ります(レビューはネタバレを含みます)。9話のレビューはこちら。
まだ語らせて!広瀬すず×永瀬廉『夕暮れに、手をつなぐ』最終回。永遠の同士だから隣にいられる
つながれなければならなかったもうひとつの手
浅葱空豆(広瀬すず)の涙に彩られた最終話だった。
空豆は母・塔子(松雪泰子)とともに祖母のたまえ(茅島成美)のもとに赴き、パリ行きを報告する。そこで塔子が、別れたあと幼い空豆に菜の花を思い出すような黄色のドレスを贈っていたことがわかる。空豆は涙をこぼし、帰りのバス停で母を赦す。自分のブランド名を考えるなかで、母のブランド名「コルザ」が「菜の花」を意味するものと知った空豆は、もうその時点で母の思いに気づいていたのかもしれない。そっと近寄り、母と手をつなぐ。胸が詰まったような表情で「ごめんね」という塔子。空豆が次のステップに進むためには、この和解が必要だった。
しかし、空豆はパリでの暮らしに限界を感じ、田舎に戻ってくる。賞状やトロフィーが飾られているところを見るとどうやら評価はされたようだけど、コレクションに追われる生活に疲れてしまったらしい。
「おいは目の前の人が幸せになるのが見たか。畑仕事を毎日やる隣の平林さんが、たま〜にこう博多に出るときの服作りたか。畑仕事の服も作りよる、動きやすいやつ」
「人生を戦うために生まれてきた人と、楽しむために生まれてきた人とがおると。おいは楽しむために生まれてきた」
「遠くの人を楽しませる」より「近くの人を幸せにする」ことを選んだ空豆に、わざわざ九州まで会いに来て、もう一度やり直さないかと声をかけた久遠(遠藤憲一)は言う。
「生きてくのが楽しいだけのやつなんているかよ」「どう生きたって楽しいだけなんてあるわけがない。楽しみながら戦うんだよ」
ずっと戦い続けてきた人の言葉だ。しかしその言葉も、いまの空豆を動かすには至らない。
二人の距離がようやくゼロに
初の紅白出場も決まった音(永瀬廉)のユニット、ビット・パー・ミニットの福岡コンサート。チケットと「来て」とだけ書かれた手紙が届いた空豆は受付まで行くが、会場には入らず外で佇む。
空豆の足を止めたのはなんだろう。遠くに行ってしまった音が、自分を忘れてしまったかもしれない恐れだろうか。一度はパリに行ったものの、ある意味で負けて帰ってきた負い目だろうか。自分だけが覚えているのかもしれない出会いの交差点で音を待ちながら、空豆の頬に一筋、二筋と流れる涙(この表情がすごかった!)。
すれ違った二人がようやく再会を果たすのは、交差点近くの歩道橋の上と下。
音と空豆が東京ではじめて会った日(実は再会だけれど)、ホテルのバルコニーで空豆は上から音を見下ろして名前を聞いた。音が響子(夏木マリ)の家を出ていくときも、空豆がバルコニーにいた。でもこの最終回では、音が上にいる。癖のある訛りと勢いである日突然音の世界にやってきた空豆は、はじめは音を振り回す存在だった。音が売れて出ていくときも、空豆のほうも才能を発揮していたし、気持ちは変わらないとひそかに二人は信じあっていたから、そんな大きな差はなかった。空豆と一緒にいない間に、音はずっと遠くに、空豆の手の届かないところに行ってしまった。それを表現するかのような高低差。でもそれは次の一瞬であっという間にゼロになった。空豆は、その気になればいくらでも駆け上っていけるのだ。二人で、高い場所で一緒にいられるのだ。
1話で橋から飛び降りようとしていた空豆を止めた音は、空豆をおぶって歩いた。いま歩道橋の上でお互いの気持ちを確かめあった二人は向かい合い、空豆は音に抱きついた。
現代のおとぎ話を成立させた二人の演技力
空豆の渡仏前、嫉妬からくる意地悪が最悪の状態で空豆と音(永瀬廉)を遠ざけていたことを知ったセイラ(田辺桃子)は、音にすべてを告白し、空港に空豆を見送りに行くように言う。しかし音はレコーディングを選び、空港には行かない。
「空豆 俺たちまだ夢の途中だろ? お互いがんばろう。永遠の同士へ。また会える日まで、タフに生きよう」
音が響子に託した手紙には、ともに夢を追う同士としての言葉が並んでいた。一緒に住んでいたとき、どうしてもこたつの90度の距離から近くにはいけなかった二人は、3年間夢に向かって頑張ったから、それぞれきっと自分の道を見つけたから、ようやく一緒にいられるのだろう。二人のラブストーリーとしてはハッピーエンドだけれど、空豆がこの先選ぶ道が気になる。モードの世界に疲れた彼女が、それでも自分のペースで表現をしていくことは可能だろうか? ビット・パー・ミニットの紅白の衣装は、幼い頃塔子から贈られたドレスのような菜の花色だった。
ある日突然大ブレイクを果たすミュージシャンと才能あふれるデザイナーの恋。広瀬すずと永瀬廉の演技は、現代のおとぎ話を立ち上がらせた。
訛りを直さず、直情的な空豆は、恋にもう一歩が踏み出せない面もあった。無言で思い悩み、感情の揺れた分だけ涙を流す広瀬すずのその静かな演技にこそ、彼女の魅力が詰まっていた。本当のことを言えないでいる音のそのさみしげな表情は、永瀬廉でなければ出せなかっただろう。一見おとなしくも、自分の思いを持ち、ときにいいテンポで相手に反論もし、そのとき大事なことを選択できる青年を彼は好演したと思う。『夕暮れに、手をつなぐ』はふたりの俳優の魅力を存分に感じられるドラマだった。
脚本:北川悦吏子
演出:金井紘、山内大典、淵上正人
出演:広瀬すず、永瀬廉(King & Prince)、夏木マリ、松本若菜 他
プロデュース:植田博樹、関川友理、橋本芙美、久松大地
主題歌:ヨルシカ『アルジャーノン』
エンディング曲:King & Prince『Life goes on』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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